ブログ:細分主義への警鐘

とても面白い本を読んだので
紹介させていただきます。

「WHOLE(ホール)」
(T・コリン・キャンベル著、ユサブル)

著者は、
コーネル大学栄養生化学部名誉教授であり、
栄養科学の分野で
50年以上にわたり活躍している
栄養科学研究の世界的権威です。

サブタイトルは、
「がんとあらゆる生活習慣病を予防する
最先端栄養学」となっていますが、
実際には栄養に関することは
はほとんど書かれていないという
不思議な本です。

ここで言うホール(WHOLE)とは
全体という意味ですが、
言わんとすることは
各栄養素に分けて考えるのではなく
食べ物を全体という視点から
考えましょうということです。

また著者は
PBHF(プラントベース・ホールフード)の
大切さを強調していました。

これは多種多様な野菜類や
全粒穀物を中心に食べ、
加工度の高い食品や動物性食品は避け、
カロリーの80%を炭水化物から摂り、
10%は脂質から10%はタンパク質から
摂るという考え方です。

やや言い過ぎかなと
思うところもありますが
大筋では賛成です。

この本で述べられている
重要なことのひとつが、
リダクショニズムへの警鐘です。

リダクショニズムとは
要素還元主義のことですが、
この本では細分主義と訳されており、
こちらの方が
意味はわかりやすいかと思います。

要するに、
ものごとの真実を見出すためには
全体を部分に細分化し、
その各々を徹底的に研究したうえで、
それらをつなぎ合わせれば、
全体が理解できるようになるという
考え方です。

しかしリダクショニズムの考え方では、
決して真実は見えないということを
著者は様々な例を挙げて説明しています。

なぜならば、すべてのものは
各要素の単なる寄せ集めではなく、
各々がつながりを持って関係性を作り、
それが全体としてまとまりのある存在に
なっているからです。

つまり、
「全体は部分の総和以上」の存在であり、
いくら部分部分を詳しく調べても、
決して全体を理解することなど
できないのです。

これはホーリズムの考え方であり、
著者はこのホーリズの大切さを
強調しています。

ただしこの著者は、
最初からホーリズムの考え方を
持っていたわけではありません。

最初はリダクショニズムで
栄養の分野の研究を行なっており、
たくさんの論文も書いています。

そのような研究をしている中で、
栄養素や分子、遺伝子といった
「部分」を取り出し、
それをいくら研究しても
「全体」は決してわからないということに
気づいたのです。

例えば
「一日1個のリンゴで医者いらず」という
言葉がありますが、
それくらいリンゴは
健康によい食べ物だということが
言われています。

これを栄養学的に調べてみると
ビタミンC、K、B6、カリウム、
食物繊維など多く含まれており、
また少量ながらも
ビタミンAやE、リン、銅など
たくさんの栄養素が含まれています。

では、これらの栄養素のうち
本当に大切なのはどれなのでしょうか。

リダクショニズムの研究者は
当然そのような疑問を抱きます。

それを調べるために
ビタミンCに注目しました。

ビタミンCには強い抗酸化作用があり
有害な活性酸素の働きを抑えてくれるので
動脈硬化や心筋梗塞、がんなどの予防に
有効だと言われています。

そこで100gの生リンゴが持っている
抗酸化作用を調べてみると、
ビタミンC1,500mg分に
相当することがわかりました。

ところが100gのリンゴに含まれる
ビタミンCを調べてみると
なんと5.7mgしかありませんでした。

つまり、リンゴの中に含まれる
抗酸化作用の働きは、
ビタミンCという特定の栄養素に注目すると
全体の1%にも及びません。

残り99%の抗酸化作用の働きは
リンゴの中の他の成分が
関与しているということです。

要するに、ビタミンCの抗酸化作用は、
リンゴ全体に含まれる
様々な要素があってこそ
初めてその効果を発揮できるのです。

ですからビタミンCだけを取り出し、
それをサプリメントとして飲んでも、
その働きをサポートする
「脇役」の存在がなければ、
ビタミンCはその力を発揮できないのです。

だからと言って、
その「脇役」を調べそれに加えても、
リンゴ全体に含まれる「脇役」からすると
ごく一部であり、
リンゴ全体に含まれる「脇役」には
とても及ばないのです。

この研究は
権威のある科学雑誌
「ネイチャー」に掲載されました。

そこでの結論は、
「生の果物に由来する抗酸化物質は
健康補助食品(ビタミンC)よりも
大きな効果を発揮する」というものでした。

このことからもわかるように
いくら「部分」である栄養素を研究しても、
決して「全体」の姿はわからないのです。

これがリダクショニズムの限界なのです。

    ブログ:細分主義への警鐘” に対して2件のコメントがあります。

    1. 関段奈月 より:

      いつも楽しく拝読しております。
      興味深く読ませていただきました。
      「ホーリズム」という言葉は初めてききましたが、
      その考えである「すべてのものは各要素の単なる寄せ集めではなく、
      各々がつながりを持って関係性を作り、
      それが全体としてまとまりのある存在に
      なっている」とう考えは、まさにその通りだと思います。
      黒丸先生のお考えの根底になっているとのことで、
      いつもおしゃっていることもより理解できるような気がしました。
      食品の話に留まらず、ふっと、人間をどのように捉えるか?と考え
      同じように考えられるのではないかと思いました。
      個人的には精神・身体・社会・霊的なもの・環境・時代・・・
      様々なものがお互いに影響し合って一人の人間が成り立っていると考えています。
      なので、医療・治療を考えた時に、木を見て森を見ずという状態になっていないかと
      気になるため、患者の精神面に関心がある看護師になったような気がします。
      その他、「加工度の高い食品や動物性食品は避ける」のは賛成で
      他の比率はやや意外に感じました。
      栄養学的なお話もまた知りたいです。

    2. holicommu より:

      関段さんへ。コメントありがとうございました。まさに世の中、すべて細分主義であり、ホーリズムの視点が抜け落ちていることがしばしばです。そうは言っても、どうやってホーリズムが正しいかを示すことが難しいのですが‥

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