ブログ:「心の治癒力」なくして医療なし

先日、久しぶりに
緩和ケアに絡めて心の治癒力についての
講演をさせていただきました。

私のセミナーの卒業生である寺内さんが
今働いている訪問看護の人たちを集め
勉強会を企画してくれたのです。

場所は赤穂浪士で有名な赤穂です。
でも、彦根からそこまで行くのが遠かった!

途中、京都から相生まで
新幹線を利用しましたが
それでも2時間半もかかりました。
もう、立派な旅行です。

当日は15人程度の人が
集まってくれました。

テーマは、
「心の治癒力なくして医療なし」

要するに、
一人でも多くの医者やナースが
心の治癒力の存在を認識し、
それを活性化させるような
かかわりができるかが重要であり、
それが治療効果を
大きく左右するという話しです。

例えば痛み止めひとつとっても
心の治癒力が大きく関与していることが
わかります。

がんの痛みに対しては
通常、麻薬系の痛み止めを使います。

薬が厚労省で承認されるためには
その薬に有効性があるというデータを
提出しなければなりません。

その際に行なうのが
プラシーボとの比較試験です。

全く鎮痛効果のないプラシーボよりも
実際の薬の方が
明らかに鎮痛効果があるということを
確認する必要があります。

そんなこと、確かめるまでもないと
思っている人も多いかもしれませんが、
実際はそうとも限らないのです。

なぜならば、鎮痛効果のないはずの
プラシーボでも痛みが軽減することが
わかっているからです。

これがまさに
心の治癒力の働きによるものなのです。

人は薬を飲んだり点滴をしたりする際、
これで痛みが楽になるという思いを
無意識レベルで持ちます。

このような無意識レベルで抱かれる
期待感や安心感が心の治癒力なのです。

つまり、薬を飲んで効いたと思うのは
薬そのものの効果もありますが、
そこに心の治癒力による底上げ効果が
加味された結果なのです。

そうは言っても、
やはり薬の効果の方が
圧倒的に大きいのではと思う人が
ほとんどです。

しかし実際はそうではありません。
特に抗うつ剤や抗不安薬は
75%が心の治癒力による底上げ効果ですし、
痛み止めも50%以上は
心の治癒力によるものです。

最初に言った麻薬系の鎮痛薬ですら、
心の治癒力による効果の方が
大きいと言われています。

つまりこれは、
心の治癒力が働かなければ、
多くの薬はあまり効かなくなるということを
意味しています。

ただここで
勘違いしてもらいたくないことがあります。

心の治癒力のことを
「心の持ちよう」とか
「病は気から」と同じ意味合いだと
しばしば誤解されているのですが、
それは全く違います。

こちらは、
意識的に気持ちをポジティブにすれば
痛みも軽減するといったイメージで
使われています。

確かに多少はそのようなことも
あるかも知れませんが、
意識よりも無意識レベルの思いの方が
圧倒的に大きな影響力があるため、
痛みが楽になるという思いだけでは
なかなかうまくいかないのです。

そうではなく、
実際に薬またはプラシーボを飲むという
「行為」があってこそ初めて
安心感や期待感が生まれてくるのです。

ですから、何の「行為」もなく、
思いだけで痛みを軽減するというのは
なかなか難しいのです。

そのため「気の持ちよう」などといっても、
それは現実的ではないのです。

また、薬などの治療行為だけではなく、
患者さんとのつながりや関係性も
心の治癒力を活性化させる
大きな要因のひとつです。

例えば、
A看護師にケアをしてもらう患者さんが
「この看護師はすごく優しい」
「いてもらうだけでホッとする」
といった思いを抱いたとしましょう。

この場合、A看護師とのかかわりを通して
その患者さんの心の治癒力が活性化され、
安心感や信頼感を持つようになります。

もちろん、この安心感や信頼感は
治療効果を底上げすることになります。

医者は薬によって症状や病気が
よくなったと思っているかもしれませんが、
実際にはこのように、
ナースや作業療法士をはじめとする
医療従事者のかかわりによる
心の治癒力の底上げ効果があるからこそ
それなりの治療効果が出るのです。

西洋医学では、
どうしても医者が中心であり
また身体面ばかりに目が向けられるため、
いかにして心の治癒力を活性化し、
治療効果を高めるかといった視点は
全くと言ってよいほどありません。

そのため、
心の治癒力による底上げ効果を通して
ナースらは医者に勝るとも劣らず、
治療に貢献しているにもかかわらず
その認識がほとんどなく、
単に医者の手助けをするだけの存在だと
思っていることが残念でなりません。

今回の講演を通して、
ナースや作業療法士の方々の
存在そのものやかかわりが
まさに「薬」になるんだということに
気づいてもらえたら幸いです。

寺内さん、当日集まってくださった皆さん
本当にありがとうございました。

    ブログ:「心の治癒力」なくして医療なし” に対して2件のコメントがあります。

    1. 安井 津谷子 より:

      黒丸先生。
      先日は赤穂まで講演ありがとうございました。お話に釘付けになりました。様々な職種の立場から1人の患者さんを支えているって改めてわかりました。
      底上げができるナースを目指します。
      また来年もきていただきたいです。

      手品の種明あかしも、、知りたいです。
      楽しい1日でした。

    2. holicommu より:

      安井さんへ。コメントありがとうございました。役に立ててなによりです。

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