ブログ:「当たり前」という錯覚

今までは、知らず知らずのうちに
そう思ってしまうという、
無意識レベルの話をしてきました。

今回は、じっくり考えたとしても
人はしばしば間違いを犯すという話を
したいと思います。

誰もが当たり前と思うことでも
実は当たり前ではないということが
たくさんあります。

先ずは最も有名な、
モンティ・ホール問題について
少し考えてみましょう。

問題は単純です。

目の前にA、B、Cの三つの箱があります。
その中のどれか一つが、
指輪が入っている当たりの箱で、
他の二つは何も入っていないハズレの箱です。

例えば、あなたはAを選んだとしましょう。
この段階では、Aが当たりである確率は
3分の1です。

その後、答えを知っている司会者が
Bの箱を開け、
ハズレであることを示しました。

残りはCの箱だけになりますが、
この段階であなたは、
Cの箱に変更することができますし、
最初に選んだAに
そのまま留まることもできます。

さて、Aに留まるのと
Cに変更するのとでは、
どちらの方が当たりの箱を選ぶ可能性が
高いでしょうかという問題です。

私は、この問題を初めて見たとき、
Aに留まるのもCに変更するのも
どちらも当たる確率は2分の1だから、
同じだと考えました。

多分多くの人はそう考えますし、
実際に、この問題が世に出た際、
数学者や統計の専門家でも
ほとんどの人がそう考えたのです。

しかし実際はそうではありません。

Aにそのまま留まると
当たる確率は3分の1ですが、
Cの箱に変更すると
確率は3分の2になります。

ですから、Cの箱に変更した方が
当たる確率が2倍になるのです。

なぜそうなるのかについての詳細は
ここでは述べませんが、
興味のある方は、
「モンティ・ホール問題」で
調べてみて下さい。

実は、これは「条件付き確率」の問題で
ベイズの定理を使います。

条件付き確率という言葉を
初めて聞く人も多いかと思いますが
言っていることは簡単です。

例えば、あなたの目の前に「何か」があり、
それが「犬」であることしかわかりません。

では、その「何か」が動物である確率は
どれくらいでしょうか?

当然、犬は動物なので答えは100%です。

では、その逆について考えてみます。
あなたの目の前に別の「何か」がいます。

それは「動物」だということしか
わかりません。

では、その「何か」が犬である確率は
どれくらいでしょうか。

動物には猫やインコ、蛇、金魚など
様々なものがいるので、
正確にはわかりませんが、
100%でないことは確実です。

つまり条件付き確率とは、
「犬」という条件下において
それが「動物」である確率を意味します。

また、今見たように
その逆は成り立ちません。

つまり、「動物」という条件下で、
それが「犬」である確率は
同じ確率にはならないのです。

これはとても単純な話しなのですが、
この両者の確率が同じだとする誤解が
現実には頻繁に起こっているのです。

例えば、
乳がん検診でマンモグラフィーという
検査があります。

早期に乳がんを発見するのに
有用だということで
日本では盛んに行なわれています。

では乳がん検診でマンモグラフィーを行い
陽性と判断された場合、
その人が本当に乳がんである確率は
どれくらいでしょうか。

乳がんの患者さんに
マンモグラフィー検査を行なえば、
80%程度の確率で陽性だと
判断されると思います。
(実際にはもっと低いようですが‥)

一方、
乳がん検診でマンモグラフィーを受け、
陽性と判断された場合、
本当に乳がんである確率は
80%程度だと思ってしまいがちですが、
実際は10%程度です。

これも先ほどと同様、
ベイズ統計で計算すれば
正解にたどり着けます。

そのためアメリカでは2009年に、
40歳代の女性には
マンモグラフィーの検診を
推奨しないという決定を下しました。
(日本では推奨していますが‥)

また、コロナがはやっていたときに、
里帰りするさい、
念のためにPCR検査を受け、
コロナではないことを確認する人が
たくさんいました。

実はこれも同様のことであり、
PCR検査をしたがために、
コロナでないにもかかわらず、
コロナ陽性と判断されてしまった人が
10%程度はいたと考えられています。

コロナに感染しているならば
PCR検査で陽性になる確率は
99%であるというのは真実ですが、
その逆は成り立たないという
事実を忘れているのです。

つまり、PCR検査で陽性ならば、
コロナに感染している確率も99%だと
思ってしまうことからくる誤解です。

先日、研修医にこの問題を出したところ、
これは医師国家試験にも
出された問題ですと言われ、
彼はしっかり正解を出していました。

「当たり前」と思っていることでも、
実はそうではないということが
たくさんあるという事実を
私たちはもっと知っておく必要が
あるのではないでしょうか。

    ブログ:「当たり前」という錯覚” に対して2件のコメントがあります。

    1. 松岡温美 より:

      黒丸先生おはようございます♪
      めちゃくちゃ興味深く読ませて頂きました。私の頭では後もう少し突っ込んで話を聞きたい〜!
      来月のほりこみでよろしくお願いします\(^-^)/

    2. holicommu より:

      松岡さんへ。興味を持っていただきありがとうございます。また次回のホリコミで。

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