ブログ:マイノリティの生きづらさ②

(前回からの続き)
私は西洋医学を否定するつもりなど
毛頭ありませんし、
救急疾患や外科疾患のように、
西洋医学的な考え方で対応することで
救われる命もたくさんあります。

そのことは重々承知しているのですが、
そのような機械論的な考え方で、
ほとんどすべての患者さんの治療が
行われてしまっていることに
戸惑いや違和感があるのです。

患者さんの思いや心に重点を置いたり、
自然治癒力に任せてもよい場面だって
現実にはたくさんあります。

しかし、そのような場面ですら、
従来の機械論的西洋医学の考え方で
対応するのが当たり前である世界に
身を置いていることに、
私は居心地の悪さや居場所のなさを
強く感じてしまうのです。

だからと言って、
もっと患者さんの心を大切にした
対応をしましょうとか、
不必要な薬や点滴、検査はできるだけ
控えるようにしましょうなどといった
おこがましい発言を
するつもりもありません。

マジョリティの中で、
マイノリティの人間がいくら叫んだところで、
とても理解してもらえるとは思えないし、
お互い嫌な気分になるのも嫌だからです。

もっとも、緩和ケア医という立場上、
一般的な科の医者とは、
あまり深く関わらなくてすむので、
その点は助かっています。

また、緩和ケア医は私一人だけなので、
緩和ケア病棟では、
ある程度、私の流儀で仕事が可能なので
その点では必ずしも
居心地が悪いわけではありません。

ただし、
他の医者と一緒に患者さんを診ていたら、
何で検査しないの?
なんで抗生剤を投与しないの?と、
大いに疑問を持たれ、
それでいてあれこれ説明するのも面倒なので
きっとギクシャクすると思います。

ですから、私のような
マイノリティの考え方を持った医者が
一般の病院で働いている限り
あまり表には出ず、
他の医者にあれこれ言われることなく、
人知れずひっそりと自分なりの医療を
続けることができればそれでいいのです。

実は、医療のみならず、
現代の資本主義社会という仕組みの中で
生活していることにも
生きにくさを感じています。

ご存じのように
資本主義社会の根底には、
成長主義や利潤追求主義があります。

私たちは、
たくさん仕事をし、どんどん儲け、
さらに成長していかなければ、
生き残っていけない
資本主義というシステムの中に
組み込まれています。

当然、病院経営も
そのシステムの中で機能しています。

できるだけ入院患者を増やし、
できるだけ退院を促進し、
できるだけ回転数を上げることで、
利潤は上がります。

病院が儲からないと、
新しい医療機器も購入できず、
スタッフの給料やボーナスにも
影響が出てきます。

患者さんの病気を治し、
命を救うのが病院の使命ですが、
その一方で、患者さんを増やし、
たくさん入院させないと
病院がやっていけないという現実に
大きなジレンマを感じずにはいられません。

しかしこれは、資本主義社会の中で、
その歯車のひとつとして生きている私たちの
宿命なのです。

その一方で、
永遠に成長を続けるという
絶対に不可能な前提に立っている
資本主義社会の裏では、
大自然がどんどんと蝕まれていきます。

そんな現実をわかっていながらも、
目先の便利さや心地よさに負け、
パソコンを使い、居酒屋で酒を飲み、
休みの日は映画を見たりするという
生活を続けてしまっています。

自分でも矛盾していることは
わかっているのです。

しかし、資本主義社会というシステムに
私たちの生活は
組み込まれてしまっているため、
そこから逃げ出すわけにはいかないのです。

資本主義社会のあり方に疑問をもちつつ、
その中で生活をしている自分は、
本当にこれでいいのだろうかという思いが
どこかでくすぶっているのです。

これもどちらかと言えば
マイノリティの考え方だと思います。

このように、
マイノリティの考え方を持っている人間は、
なにかと生きにくさがあるものです。

もっとも最近はマイノリティとか言うと、
もっと多様性を大切にしましょうといった
きれいごとを聞くことが多くなりましたが、
これは明らかにマジョリティの人の
発想だと思います。

マイノリティはマジョリティの中では
生きにくさがあるのは確かですが、
あれこれ干渉されるのは
もっと煩わしさを感じます。

マイノリティはマイノリティの仲間の中で
うまくやっていければ、
それでよいのではないでしょうか。

ですから、
もっとみんなに理解してもらうために
マジョリティの人たちとも
積極的にかかわっていこうなどと
思わなくてもよいと思っています。

そんなことをしても、
表向きは、多様性の大切さを認めながらも
裏では、あれこれ陰口を
たたかれるだけですので。

小説「正欲」を読みながら、
そんなことを考えていました。

    ブログ:マイノリティの生きづらさ②” に対して2件のコメントがあります。

    1. あおい より:

      今回の“マイノリティの生きづらさ①②”、
      涙でました。
      「現代の資本主義社会という仕組みの中で生活していることにも
      生きにくさを感じています。」というところ、特に。
      がむしゃらに働いていた若かりし頃の自分に、この記事を読ませてあげることができていたら
      あんなに深く悩むこともなかったかも・・・
      でもま、今ふりかえればすべて自分が選んだことだったと疑いなく思えます。
      なんだかこの記事のおかげで、
      自分の過去も肯定でき、尊い時間を乗り越えてこれたんだなって、しみじみ感じました。

    2. holicommu より:

      あおいさんへ。多少なりともお役に立てて何よりです。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA


    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください