ブログ:末期の大腸がんになって

緩和ケア医として
長年、末期がんの患者さんのケアに
従事してきましたが、
いつかは自分も末期がんになる日が
来るのではないかと思っていました。

これは私の言葉ではなく、
「病院で死ぬということ」の著書で有名な
山崎章郎(ふみお)先生の言葉です。

山崎先生は、ホスピス・緩和ケアの
草分け的存在の一人です。

緩和ケアがまだ
ほとんど知られていなかった1990年頃は
末期がんの患者さんにも
最後は当たり前に心臓マッサージを
していた時代です。

全く意味のない行為でしたが、
当時は「死=敗北」という考えが
医療の世界を支配していました。

ですから当然、
一秒でも長く生きさせることが
医者の使命だと思われていた時代です。

そんな時代に外科医として
日々の治療に携わっていた山崎先生ですが、
「病院で死ぬということ」を出版して以来、
終末期医療に携わるようになり、
2005年からは在宅緩和ケアに
取り組んでおられました。

そんな山崎先生が、
2018年の夏に大腸がんだとわかり手術、
その後、飲み薬の抗がん剤を服用していました。

ところが、日常が壊れるほどの
ひどい副作用で苦しめられた上に、
半年後のCTでは肺への転移が確認され、
ステージ4の末期がんに
なってしまったのです。

末期がんになると、通常は治ることはなく
抗がん剤治療という延命治療が始まります。

その抗がん剤もあれこれ変更しても、
いずれはすべてが
効かなくなるときが来ます。

抗がん剤による
ひどい副作用を経験した山崎先生は、
もうこれ以上抗がん剤治療はしないという
決断をしました。

治療をしないと言った以上、
西洋医学的な治療はもうありませんので、
あとは緩和ケアへ行くしかありません。

もちろん、世間巷には
免疫療法をはじめとする代替療法は
たくさんあります。

末期がん患者さんは、
藁をもつかむ思いで
これらの代替療法にすがる人も
たくさんいます。

しかし、それをしようにも、
いかんせん高額であることが
一番のネックになります。

数百万円かかるのは普通ですし、
それを何回も続ける必要があるので、
当然、どこかで治療が受けられなくなります。

もちろん、続けられたとしても
がんが治る保証はどこにもありません。

代替療法に希望をつなぎたいと
思いながらも、
結局はあきらめて、やむなく
緩和ケアに来るという患者さんが
大半なのです。

当然、緩和ケア医である山崎先生も、
そんな絶望感に打ちひしがれ、
緩和ケアを訪れてくる患者さんを
たくさん診てきました。

山崎先生は、以前から
末期がんの患者さんに対する
がん治療のあり方に
疑問を持っていたようです。

それは、現行の保険診療では、
抗がん剤治療を希望する患者さんには
十分な恩恵があるにもかかわらず、
抗がん剤治療を希望せず、
代替療法などを希望する患者さんには
全く恩恵がないというのは
どうなんだろうかという疑問でした。

ただし、今までは
それに疑問を呈することはしても、
具体的な解決策を提示することまでは
していませんでした。

今回、自分が末期がんになることで、
その解決策を具体的に提示し、
末期がんの治療のあり方に
一石を投じたいという思いから書かれたのが
「がんを悪化させない試み」(新潮社)です。

ここでは山崎先生自らが
いろいろな代替療法を試してみた結果、
「がん共存療法」に行き着いた経過や
今後のことについて書かれています。

詳細は本書に譲るとして
ここでは「がん共存療法」の内容を
簡単に説明させていただきます。

この中核をなすのが糖質制限ケトン食療法に
EPA(必須脂肪酸のひとつ)とビタミンDを
取り入れたものです。

その後、
クエン酸療法や丸山ワクチンも
併用しています。

これらの一連の治療により、
一部の転移巣を除き、
がんは縮小ないし消失を認めました。

しかしその後は効果が停滞、
この療法の限界を感じたようです。

そこで、これに少量の抗がん剤も
併用することにしました(がん休眠療法)。

通常の5分の1から20分の1という
ごく少量の抗がん剤ですので、
副作用もありません。

その結果、腫瘍の増大は認めず、
一部は縮小傾向を示しました。

山崎先生は、大腸がんに対する
標準的な抗がん剤治療をやめたのが
2019年5月、その後
「がん共存療法」を試行錯誤しながら続け
この本は2022年6月に出版されました。

つまり「がん共存療法」で3年以上、
がんが縮小した状態が維持されています。

私は山崎先生に、
拍手喝采を送りたいと思います。

同時に、やや残念な思いもあります。
それは、山崎先生がまだ
気づかれていなことがあるからです。

そのことについては
次回書かせていただきます。

    ブログ:末期の大腸がんになって” に対して2件のコメントがあります。

    1. 須藤哉子 より:

      ほのぼのとした楽しく面白い連載のあとに、ええー!?何てことー?!と思いましたが、読んでホッとしました。
      「先生がまだ気づかれていないこと」とは何でしょうか。次回も楽しみにしています。

    2. holicommu より:

      須藤さんへ
      ご心配をおかけしてすみませんでした。

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