ブログ:科学論文が信頼できない理由

前回は一流の科学論文であっても
信頼できないものが
思いのほか多いという話しをしました。

今回は、もう少し突っ込んだ話しをします。

なぜ、このような信頼性のない論文が
大量に書かれてしまうのか、
その背景についてです。

今回もスチュアート・リッチー著、
「あなたが知らない科学の真実」
(ダイヤモンド社)の内容を基に
話しをさせていただきます。

医者や研究者のほとんどは
誠実で真面目であり、
あえて不正を働こうなどとは
思っていません。

しかし中には明らかに
不正だとわかって
論文を書いている人もいます。

不正の中には、
ちょっとした不注意や
ミスによるものもあるため、
必ずしも悪意があるとは限りません。

実際、生物学の学術誌の載せえられた
2万本以上の論文を調べたところ、
使われている写真に不正を認めたものが
3.8%もあることがわかりました。

これは約25本に1本の割合ですので
かなり多いと思われます。

ただし多くは単純ミスであり
著者が修正・加筆することで
問題は解決しました。

しかし、約10%の論文は
その後、撤回されたことから、
何かしらの悪質なことが
行なわれていたのではと推察されます。

このように論文として掲載されても、
誤りが認められたりした場合、
撤回されることがあります。

撤回論文の情報を提供するサイトである
「リトラクション・ウォッチ」には、
18,000本以上の論文が載っています。

この中で単純なミスによる撤回は
全体の40%以下であり、
それ以外は詐欺(約20%)や盗用など
不道徳な行為が原因で撤回となっています。

このサイトに名前が載るのは
とても不名誉なことですが、
中には常連もいます。

撤回論文数のトップは
日本の麻酔科医である藤井善隆であり、
撤回された論文数は183本で、
多くの場合、データのねつ造でした。

調査委員会は彼のすべての論文を調べ、
結局、不正がなかったのは3本だけでした。

このようなねつ造の常連もいますが、
多くの研究者はあえてねつ造などしません‥
と言いたいところですが、
現実はそうではありませんでした。

ねつ造に関する調査では
調査対象の科学者の1.97%が
少なくとも一度は
データをねつ造したことがあると
認めています。

50人に1人が
詐欺行為を認めていることになりますが、
現実はもっと多いと思われます。

実際、データを改ざんした人を
知っているかという質問をすると
その割合は14.1%に跳ね上がることからも
そのような不正行為が
かなり行なわれていることは
想像に難くありません。

医者も科学者も人間です。
論文を書いて有名になりたいとか、
みんなに認められたいという思いは
当然あります。

だからこそ、
少しくらいならいいかと思ってしまい、
つい不正に走ってしまうのは、
わからないでもありません。

実際、この程度なら不正とは言えないという
自分に都合のよい解釈を
人は知らず知らずのうちに
してしまうものです。

例えばある研究をした場合、
仮説を裏づけるような
ポジティブな結果が出る場合と
仮説を否定するネガティブな結果が
出る場合があります。

ポジティブな結果が出れば
研究者は喜び、すぐさま論文にします。

しかしネガティブな結果が出てしまうと、
当然、がっかりします。

実際はネガティブな結果も
ポジティブな結果と同様に重要です。

Aという薬はうつ病に対しては
効果がないということがわかれば
それは研究として一歩前進なのです。

ところがネガティブな結果が出ると
その研究結果は
論文にされないことがしばしばです。

実際、2010年に
あらゆる科学分野の論文2,500本を調べた結果、
ポジティブな結果を報告しているのは
最も低い宇宙科学でも70.2%であり、
最も高い心理学/精神医学では91.5%にも
なっています。

この成功率は非現実的なほどに
高いことがわかります。

期待される結果が
出た研究だけが論文になり、
そうではない研究のほとんどは
切り捨てられるという現実を
裏付けた結果でした。

結局、このようなよい結果の論文だけが
雑誌に掲載され
出版されることになるのです。

これが「出版バイアス」です。

出版社も興味深い発見をした論文を
採用するところが多く、
ネガティブな結果の論文は
採用しないことが多いのも事実です。

それが、ネガティブな結果の出た研究は
論文にしたがらないという研究者の思いに
拍車をかけている側面もあります。

「歴史は勝者によって書かれる」と
言われますが、
このことは科学的研究の結果にも
言えることなのです。

問題なのは、医者も研究者も
よい結果が出た論文だけを見て、
この薬は効く、この治療法や有効だと思い
それを医療現場で採用していることです。

以前、抗うつ剤の有効性が
問題になったことがあります。

ある研究者が、
表に出なかった論文もすべて引っ張り出し、
抗うつ剤の有効性を調べたところ、
今まで言われていたような有効性は
ほとんど認められませんでした。

これがまさに出版バイアスの
恐ろしいところです。

抗うつ剤はうつ病の治療に有効だと
誰もが信じていたことが
翻ってしまったのです。

私たちが知り得る情報だけが
真実ではないという現実を
如実に表した事件でした。

興味のある方は
私が大昔にFc2ブログに書いた
「抗うつ剤は本当に効くのか?」
をご覧下さい。

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