ブログ:医学部は文系だ!

医学部を受験する際、
理系か文系かと言われたら当然理系です。

私も数学、物理、化学といった
数字を駆使して
論理的に問題を解く教科を
たくさん勉強してきました。

大学に入ってからも教養過程で
数学や物理、化学も学びましたが
正直言って医者としての仕事に
何ら必要性を感じません。

もちろん、研究者になるのであれば、
専門的な知識は必要でしょうし、
論文を書くに当たっては、
最低限の統計知識も必要です。

でも今は統計学の知識などなくても
みんなパソコンがやってくれるので、
ほとんど問題にはなりません。

もちろん医学に必要不可欠な
薬や医療機器、検査機器の開発には
理系の知識や技術が必要です。

ただし、その薬を処方したり、
検査のデータを利用して
診断や治療をする方の医者は、
数学や物理といった理系の知識を
全くと言ってよいほど必要としません。

医療の中には手術や内視鏡検査といった
高度な技術を伴う仕事も含まれますが、
これとて手技やテクニックの問題であり、
難しい数学の知識を必要とするわけでは
ありません。

つまり、研究に携わる医者を除き、
臨床現場で患者さんの治療に当たる
医者にとっては、
中学生までの理系の知識さえあれば、
何ら問題なく医者の仕事はできるのです。

こう考えると、
なぜ医学部は理系でなくてはいけないのか
疑問になります。

もっと言えば、
文系の方がいい気がしますし
逆に理系であるための弊害の方が
大きいように思ってしまいます。

どのような弊害かというと、
それは、理系的な視点や発想に
どっぷり浸かってしまうことの弊害です。

同じ理系でも
理学部や工学部、農学部といった学部では
その知識や技術を生かした仕事は
どれも対象が「物質」です。

これらの学部は対象がモノなので
理系の発想は大いに生かされます。

医学部が理系に分類されているのも、
医学は身体というモノを扱う学問だという
イメージがあるからなのでは
ないでしょうか。

実際、医学部では
人間はいかに
物質のかたまりなのかということを
徹底的に学びます。

その第一歩が解剖学です。
医学部の専門課程に進むと
だれもが経験するのが解剖実習です。

私が学生のときは
ひとつの遺体を一年かけて
とことん解剖しましたが、
今はもう少し期間が短いかもしれません。

初めて解剖室に入ったときは、
遺体がずらっと並ぶ異様な光景と
鼻をつくホルマリン臭に
一瞬たじろぎました。

ここにある遺体は、
当然のことながら
以前は生きて
日常生活を送っていた人たちです。

その人たちが
病気や事故、自殺といった理由で亡くなり、
目の前の解剖台に横たわっているわけです。

なおかつ、医学の発展のために
生前に自分の遺体を役立てて欲しいと願って
献体登録した人たちなのです。

ですから、当然そのような献身的な思いに
感謝の気持ちを抱きながら、
初めてのメスを身体に入れるわけです。

ところが、
そんな厳かで神聖な気持ちでいられるのも
そう長くはありません。

毎回、数時間、それを週3回くらい
解剖をするわけですから、
バラバラにされていく目の前の遺体が
単なるモノと思うようになるまでには
そう時間はかかりません。

まさに人間は「モノ」だということを
この解剖実習で徹底的に
たたき込まれるような気がします。

阪大名誉教授だった中川米造先生は、
生前、医学部教育で最初に行なう
最初の実習が解剖学であることを
強く批判していました。

なぜならば、
そこで徹底的に人間はモノだということを
教え込み、すり込む教育だからです。

やや極端な言い方をするならば、
医学部での教育は
人は身体というモノでできており、
病気はその一部が壊れたり
うまく働かなくなったりした結果だと
いうことを学ぶ場なのです。

そんな教育を徹底的にたたき込まれた学生が
医者となり臨床の現場に立つわけです。

当然、患者さんを診たら
身体というモノにしか目が向かないのも
無理はありません。

だからこそ、
心理的、社会的側面も
少なからず身体的な病気に
影響を与えていることを学んでもらい
そういった視点からも
患者さんを診られる医者が
もっと多くなるような教育が
必要だと思うのです。

数学や物理のような
論理的な思考も大切ですが、
現実の世界はそのような考え方だけでは
対処できない問題はたくさんあります。

だからこそ、
心理学や社会学、哲学といった文系の知識も
医療には必要だと思うのですが、
今は医学教育には
そのような視点はありません。

そのような視点や知識を持った医者を
もっと増やすという意味でも、
医学部は理系よりも文系という
位置づけの方がよいのではと思うのです。

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