ブログ:心の抵抗を緩めるには④

(前回の続き)
四つの心の抵抗の最後が
「心理的反発」です。

これは、アイデアを提案する人や方法により
変化を強いられることへの抵抗です。

人は自分の自由が奪われると感じたとき
心理的反発が起きます。

例えば、ヘルメットをつけずに
自転車に乗っている人に
ヘルメットをつけなさいと言っても
多くの場合は反発され、
かえってヘルメットをつけてくれません。
これが心理的反発です。

ちょっとしたことなのですが、
人はそのちょっとしたことでも
命令されたと感じると
反発を感じるものなのです。

例えばこんな研究があります。
男子トイレの落書きを減らすために
二種類の張り紙を貼って
その効果を確かめました。

ひとつは「落書きは絶対禁止」、
もうひとつは
「落書きをしないでください」です。

結果はどうだったかというと、
どちらの張り紙も逆効果であり、
強い口調の前者の張り紙は
格段に落書きが増えました。

このように強く言えば言うほど
反発を強めてしまうのです。

また、証拠になるものを示すと
さらに反発は強くなります。
例えばこんな研究があります。

死刑を支持する人200人が
披験者として集められ、
半数には、死刑は犯罪抑止につながるため
効果的だという結論の論文を
読んでもらいました。

残りの半分には
死刑には犯罪を抑止する力がないという
結論の論文を読んでもらいました。

その結果、前者は予想どおり、
死刑は必要だという考えが
若干強まりました。

一方、死刑が犯罪抑止に
効果がないという証拠を見た後の
死刑賛成派は、
証拠を見る前よりも逆に
死刑は必要だという信念に
固執するようになりました。

このように人は証拠を見せられ、
変化を迫られるとかえって心を閉ざし、
自身の信念を守ろうとするのです。

さらに私たちは
説得されていると感じただけでも
十分に心理的反発が起こることも
多くの研究でわかっています。

特に、自分の基本的信念を
脅かすようなものは
心理的反発を誘発します。

マスクは必要だという信念をもって
常にマスクをしている人に、
マスクをずっとし続けていることは
感染予防に無意味どころか、
かえって有害ですら
あるという論文を見せても
決してマスクを外そうとはしません。

それどころか、
そう言われれば言われるほど
心理的反発が働き、より頑なになり
マスクを外さなくなるのです。

では心理的反発はどのように
対応していけばよいのでしょうか。

一番大切なのは無理強いをやめ、
自己説得を手助けするような
対応をすることです。

自己説得とは、
自らの気づきを通して、
自ずと思いを変えようとすることです。

スケーリングを使った質問は、
そのための有効な方法のひとつです。

例えばアルコール依存症の人に、
1から10の段階のうち
「1はアルコールをやめる気は全くない」、
「10は本気でやめる決意がある」としたら
今のあなたの思いはいくつですか?と
たずねるのです。

多くの人は1や10を避け、
2~4程度の数字を選びます。

そこで「どうして1ではないのですか?」
とたずねるのです。

これに答えようとすると、
自分は多少はアルコールをやめようという
思いがあるという理由を言わざるをえません。

例えば
「子供にこれ以上迷惑をかけられないから」
といったような、
自分で自分を説得するような
発言をせざるを得ないのです。

要するに、
こうしろと指示をするのではなく、
自分自らの気づきを促すような
質問をすることで
心理的反発を回避できるのです。

他にも、相手から
「イエス」を引き出すことができれば
それだけでも自己説得につながります。

例えば、飲食業界では料理の予約を
無断でキャンセルされることによる損失は
バカになりません。

そこで、予約を受ける際に
「いらっしゃれなくなった場合は、
キャンセルのお電話を頂けますか?」と
たづねる形で会話を締めくくるだけで、
無断キャンセルがかなり減るのです。

なぜならば、
「キャンセルの電話を下さい」という
指示を与えるのではなく、
「イエス」を引き出す質問をすることで
自らが決めたことという認識が
無意識レベルで形成されるからです。

このような「イエス誘導法」も
心理的反発を回避するための
有用な方法になります。

4回にわたり、
変化に対す心の抗の四つの要因である
「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」と
その対処法についてお話ししてきました。

これらはすべて、
無意識レベルで行なわれる反応であり、
本人自身もあまり認識していないことが
多いものばかりです。

だからこそ、
なかなか見えにくいのですが、
逆にその点に意識が向けば、
うまく相手の抵抗を緩めることができ、
こちらの提案やアイデアを
受け入れてくれる可能性が
高くなるというわけです。

これらの考え方に興味のある方、
もっと詳しく知りたいという方は、
『「変化を嫌う人」を動かす』(草思社)を
読んでみてはいかがでしょうか。
とても役に立つと思いますよ。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA


    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください