ブログ:心の抵抗を緩めるには③

今回も先週取り上げた
ロレン・ノードグレン+
デイヴィッド・ショルタン著、
『「変化を嫌う人」を動かす』(草思社)の
続きです。

人は提案されたアイデアに
抵抗を感じる場合、
その中心となっているのが
「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」
の四つです。

「惰性」と「労力」については
先週お話ししましたので、
今週は「感情」について
お話をさせていただきます。

まず「感情」ですが、
これはアイデアや提案そのものに対する
否定的感情による抵抗です。

例えばマスクです。
マスクの着用が屋内外を問わず
任意になったのが昨年の3月13日です。

しかし未だに半数程度の人は
屋外でもマスクをしており、
特に病院ではほとんどの人が
未だにマスクをしています。

病院や高齢者施設でのマスクの着用は
政府の見解は「推奨」です。

当然、義務や強制ではないので
あくまでも本人の自由なのです。

その事実を知っていても、
病院内でマスクをせずに歩くことは
変な目で見られたら嫌だという感情からか
本当は外したいと思っている人でも
マスクを着用していることが多いようです。

私のいる緩和ケア病棟でも状況は同じです。
でも、ちょっとした機会に
患者さんと写真を撮ることがあるのですが、
その一瞬くらいは
マスクを外してもらいたいと思っています。

ですから、ボランティアや学生、ナースらが
患者さんと一緒に写真をとるさい、
私は「マスクは外しましょう」と言います。

そうするとようやく外してくれるのですが、
何も言わないとマスクを外す人はいません。

写真を撮るときは
マスクを外すという提案に対しても
多くの人は心理的抵抗があるようです。

では、このような否定的感情への対応は
どうすればよいのでしょうか。

実は感情面の抵抗は
当人も気づいていなかったりすることも多く
結構難しいのです。

そのため意識的に探さないと
なかなか気づけないのです。

この事実は非注意性盲目としても
知られています。

人は意識をしてみると見えますが、
意識していないと見えないのです。

そのことを証明する研究として
15年以上の経験を持つ
放射線科医に胸部CTの写真を
見てもらいました。

実は、その中に「ある絵」を
挿入したのですが、
その絵にどれくらいの医者が
気づくかという実験です。

その絵とは、
怒って拳を振り回している
ゴリラの絵です。

放射線科医はCTを読影する場合、
数ミリの異常陰影を
即座に見つけることができます。

ところがそのゴリラの絵は
その48倍もの大きさであり、
普通の人が見ても一目でわかります。

ところが24人のうち20人、
つまり83%がそのゴリラの存在に
気づきませんでした(下図)。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

放射線科医は、
あり得る異常を見つけることには慣れており、
そのような視点で画像を見ています。

ところが、
その常識にそぐわない映像があった場合、
それは目に入らないのです。

つまり
「探していないものは目には入らない」と
いうことであり、
これが非注意性盲目と言われる現象です。

要するに、感情面の抵抗も同様で
そこに意識を向けないと
気づけないもののひとつなのです。

そんな、自分でも気づきにくい
感情面の抵抗にどうやったら
気づいてもらえるのでしょうか。

まずは、質問を繰り返すことで
その背景にある問題を
浮き彫りにすることです。

たとえば先ほどの
マスクの話しを例に取ると、
「どうして写真を撮る際も
マスクはつけているんですか?」
といった質問を繰り返していくのです。

最初は、皆もしているからといった
答えが出てくるかもしれません。

でもそれをもう少し深掘りしていくと
「化粧をしていないから」
「口元を見せるのが苦手だから」
「一瞬でも感染のリスクが高まるのが
怖いから」といった返答が返ってきます。

その本音をもとに
対応を考えていくというわけです。

もう少し一般的なもので考えるならば
「無料トライアル」とか
「返品制度」「返金保証」など、
お試しができるとか、
決めたことを簡単に覆せるようにすると
感情面の抵抗が緩み、
商品を購入するという行動が
取りやすくなります。

ただ、先ほども述べたとおり、
感情面の抵抗は明瞭に表われることが少なく
本人も気づいていないことが普通です。

特に、なんとなく気が進まないという感情は
その最たるものです。

はっきりとした嫌悪感や怒りなら
わかりやすいのですが、
「不安」が「無関心」という形で、
また「怒り」が「無気力」という形で
表われることもあるので、
なかなかわかりにくいのです。

そのため、その背景にある
ネガティブな感情の原因となっているものを
まずは見るける作業が必要になるのです。
(続く)

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