ブログ:私への質問

先日、龍谷大学の心理学部の3回生に
「緩和医療と心の治癒力」というテーマで
講演をさせていただく機会がありました。

最初に緩和ケアについて簡単に話し、
あとはこのブログでよく話している
心の治癒力の重要性や、
緩和ケア病棟であった実際の症例について
あれこれ1時間くらい話しをしました。

終了後質疑応答があったのですが、
私の答えは一般の人からすると
意外性のある答えだったようで、
結構、面白かったようです。

最初の質問は、
毎日のように患者さん亡くなる状況にいると
とてもストレスがたまると思うのですが、
それはどう対処しているのでしょうか、
というものでした。

これは結構聞かれる質問の一つです。

うちの病院では毎月、
15人前後の患者さんが亡くなり、
年間で180人くらい看取っています。

普通の人からすれば
人の死は非日常で特異なことであり、
それを毎日のように経験していたら
さぞかし耐えがたい気持ちに
なるのではという印象を
多くの人は持っているのでしょう。

しかし、そのさいイメージするのは
たいていの場合、
身内や身近の人の死ではないでしょうか。

今、ウクライナやガザ地区では
多くの人が毎日のように亡くなっていますが、
そのような死は、第三者の死であり、
気の毒だとは思いながらも、
尾を引くことはほとんどありません。

実は、緩和ケア病棟で亡くなる
ほとんどの人は、
この第三者的な死に近いと思っています。

もちろん第三者と言っても、
多少なりとも話しをしたり、
少しはかかわっているので、
全くの第三者ではないのですが、
気持ち的には患者さんの死は
第三者の死に近いのです。

中には比較的仲良くなったり、
意気投合したりする患者さんもいますが、
それでも親友レベルになることは
ありません。

ただ、医者や看護師によっては
患者さんに深く入り込み、
かかわりも密になる人もいます。

そういう関係にある患者さが
亡くなった場合は、
あたかも親友を亡くしたような気分になり
その後も尾を引くことはあるでしょう。

そんな深入りしてしまう患者さんが増えると
そのスタッフは
バーンアウトする可能性があります。

それは仕事にも差し支えるし、
自分自身の心の健康を害することにもなり
あまり好ましいとはいえません。

ですから、どんな患者さんであっても
ある程度、距離を持って接することは
自分を守るためにも必要なのです。

その意味で私は、
患者さんにいい意味でも悪い意味でも
深入りすることはありません。

忘れられない患者さんはいても、
大切な人を亡くしたような喪失感や
つらい気持ちになることはないのです。

ですから、
多くの患者さんの死を経験していますが、
それがストレスになるということは
ほとんどありません。

一般の人からすれば、
少し冷たいように
思われるかもしれませんが、
そうしなければやっていけない
仕事でもあるのです。

もう一つの質問も面白かったです。

「先生は、どのような最後を迎えたいと
思いますか」という質問でした。

まず、私はがんで死にたいと思っています。
ただし、脳腫瘍と舌がんのような
首から上のがんは嫌です。

見た目が悲惨になりますので。

それはそうと、
一般論としていうならば、
がんの場合、
末期になってから死ぬまでの間に
ある程度の時間的余裕があります。

脳卒中や心筋梗塞で死ぬ場合は、
突然死のことが多く、
これだと死ぬ準備も心の準備も
あったもんではありません。

ですから、自分が死ぬとわかり、
それまでの間多少の余裕がある
がんはとてもよい病気だと思います。

ただし、がんという診断に関しては
見つかったときにはすでに手遅れの
末期がんというパターンがベストです。

治療がまだ可能だという状態で見つかると
あれこれ検査をされ、
手術や抗がん剤治療をされるか、
するしないを悩む羽目になります。

治療が嫌いな私にとっては
なかなか耐えがたいものです。

ですから、多少おかしいなと思っても
決して検査を受けたりはせず、
これはもうやばいと思ったときに
病院に行けば、
多くの場合末期がんで見つかることに
なるのではないでしょうか。

そうなれば当然、
嫌いな治療を受けなくて
すむというわけです。

また、最後はやはり家で死にたいですね。
もっとも家族にあまり
迷惑はかけたくありませんので、
状態が悪化してきたら
さっさとあの世に旅立ちたいです。

緩和ケアではしばしば、
「早く逝かせてください」と懇願されますが、
医者の立場ではそれはできません。

でも、医者である自分が患者になった場合は、
ある程度は早めることはできると
思っています。

本当にそんなことをするかどうかは
そのときになってみないとわかりませんが。

私の答えは、
一般的とは言えないかもしれませんが、
でもこれが今、
私が思っていることなのです。

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