ブログ:「変わっていない」はウソ

心療内科時代、
私は初診に1時間かけ、
心理療法を駆使して、
患者さんの症状や悩みが改善するように
いろいろ工夫をして治療していました。

私のアプローチは、
初診に凝集されていると言っても
過言ではありません。

いかに初診で信頼関係を築き、
希望や可能性の芽を見つけ出すかに
全力を傾けていました。

そうすることで2回目以降の
診療がすごく楽なのです。

なぜならば、
多かれ少なかれよい変化が見られるので、
あとはそれを上手に広げれば
よいだけだからです。

ただし、2回目の最初に
「どうですか?」とたずねると
よくなったことに気づいていない患者さんが
ほとんどです。

その意味では、9割の患者さんは
変わっていないと言えますが、
実際には9割以上の患者さんが
よくなっています。

なぜそんなことが
言えるのかについて説明します。

患者さんの再診時に
「どうですか?」とたずねると、
大抵の患者さんは
「あまり変わっていません」と答えます。

その言葉を聞いて、
「変わっていないんだ」と思ってしまっては
セラピスト失格です。

患者さんは往々にしてウソをつくのです。

と言っても、患者さんが意図的に
ウソをつくというわけではありません。

自分でも知らないうちに
ウソを言ってしまうのです。

ひとは毎日200回ウソをつくと
言われています。

例えば、
髪を切った友人を見て、
「すてき!似合ってる!」と
反応することはしばしばありますが、
本当に素敵だと思っている人が
実際にはどれくらいいるのでしょうか。

多少すっきりしたとか、
悪くはないとは思う、
といった程度であっても
それらをすべて
「すてき!似合っている!」と
言ってしまうのです。

このような反応が、
ここで言うところの「ウソ」なのです。

このようなウソは、
罪にはなりませんし、
場合によっては相手にとっては
嬉しいウソかもしれません。

その意味で、人はだれもが普通に
ウソをつくのです。

話を戻しましょう。

患者さんは逆の意味で
普通にウソをつきます。

先ほどの「あまり変わっていません」という
返答ですが、
患者さんからすると
多分、自分が変わったという認識はなく、
そうかと言って
「全然変わりません」と言うのも
申し訳ないという思いから、
「あまり変わりません」と言うことで
茶を濁しておこうということが
多いように思います。

その反面、無意識レベルでは
「少しは変わっている」と
認識している場合がほとんどなのです。

意識レベルでは「変わった」という
認識はありませんが、
無意識レベルでは「変わった」と
わかっているということです。

ですから、無意識にフォーカスし、
そこにあるメッセージをうまく
意識化すれば、
少しは変わってきているということが
認識されるようになります。

それを知るためによく使う質問が
スケーリングという手法であり、
以下のような質問をします。

「最悪の状態が0点で
問題がすべて解決した状態が100点とした場合、
前回初めて来られたときは何点くらいで
今は何点くらいですか?」

すると多くの患者さんは、
「初めて来たときは10点くらいでしたが
今も20点くらいです」
といった答えが返ってきます。

患者さんからすれば、
10点が20点になったからと言って、
そんなのは
ほとんど変わらないという認識です。

それが「ほとんど変わらない」
「あまり変わらない」という表現に
なるわけです。

患者さんからすれば、
せめて40~50点くらいにならないと
変わったという認識は持てないのです。

セラピストや治療者からすると、
たとえ10点上しか上がっていなくても
10点分くらいは
よくなったということがわかります。

ですから、
その点を相手に認識してもらうために
「どんなところから、
10点が20点になったということが
わかるんですか?」と、
さらに質問します。

そうすれば、
10点分点数が上がったこと、
例えば、喧嘩がすこし少なくなったとか
痛みが多少はましになったとか
答えてくれます。

このように、
無意識レベルで認識している、
少しよくなっているという事実を
言語化してもらうことで
意識化する作業が
スケーリングを使った質問なのです。

このようなやりとりをすることで
少しは改善しているということを
患者さんも認識できるわけです。

最初に「変わっていません」と言っていた
9割の患者さんは、
このやりとりを通して
「少しは変わりました」に変わるのです。

そういう意味で、
一回の診療で9割の患者さんは
多かれ少なかれ、
よくなっていると言えるのです。

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