ブログ:「自分の判断」を信じるという罠

またまた面白い本を
見つけてしまいました!

アン・ウーキョン著、花塚恵訳の
イェール大学集中講義
「思考の穴」(ダイヤモンド社)です。

これは私の大好きな認知バイアス、
つまり自分でも気づかない
心のクセについての講義を一冊の本にした
とてもわかりやすい本です。

例えば私たちは、
自分が信じているものが正しいと
思いたいがために、
その裏付けや証拠ばかりを
集めようとする傾向があります。

これが「確証バイアス」です。

確証バイアスは、
医者の誤診の原因になることも
しばしばです。

私がまだ研修医の頃、
便秘を主訴に12歳の男の子が
来院しました。

彼は半年前から便秘が続いているといい、
何度が病院で受診をしましたが、
単なる便秘だと言われ、
その都度下剤を処方され
帰されていました。

しかし便秘は一向に改善せず、
その後もしばしば病院を訪れていました。

そんなある日、
先輩医師が肛門に指を入れて
直腸に問題がないかを調べる
直腸診をしたところ
指先に腫瘍が触れたのです。

その後の検査で、
末期の直腸がんと診断され、
結局その半年後に
その子は亡くなってしまいました。

これは明らかに誤診ですが、
しかし、ほとんどの医者は
12歳の子供が直腸がんになるなんて
まず考えることはありません。

多くの場合、野菜嫌いだからとか
あまり運動をしないとか、
ストレスがたまっているといった、
通常の便秘だという医者の思い込みを
正当化する情報ばかりに
目を向けてしまうものです。

これが確証バイアスの怖いところです。

もし自分の思いに反する考えにも
目を向けることができたならば、
もう少し早い段階で直腸がんを発見でき、
命を助けられたかもしれません。

このように確証バイアスに陥ると
ときに最悪の結果を
招くことにもなるのです。

医者は、多くの人から絶対的な信頼を
得ているからこそ、
確証バイアスに
陥りやすいとも言えます。

18世紀末までは
西洋医学の治療の中心は
「瀉血(しゃけつ)」でした。

瀉血とは、血を抜くことであり、
それにより
体内にたまった有害物質を外部に排出し、
それで病気が治せると信じられていました。

しかし実際には、
瀉血により多くの人が亡くなりました。

実際、アメリカの初代大統領の
ジョージ・ワシントンも
喉の感染症の治療に対して
有名な医者がこぞって瀉血を繰り返し
結局、それが原因で
亡くなったと言われています。

当時は、瀉血で病気が治った例ばかりが
取り上げられ、
瀉血で死んだ患者さんがいても
意に介されなかったのです。

もちろん、
瀉血をしなくてもよくなった患者さんも
たくさんいたのですが、
その人たちが注目されることも
ありませんでした。

どんな治療法であれ、
一度信じてしまうと、
成功例ばかりに目が向いてしまい、
本当はどうなのかと疑問を持つことが
できなくなってしまうのです。

では確証バイアスに
気づいてもらうためには
どうしたらよいのでしょうか。

実はこれはとても難しいことです。
なぜならば私たちの脳には
そのような見方が
先天的に組み込まれているからです。

ただし、ある程度意識することは可能です。

ではここで、
確証バイアスに気づいてもらうための
簡単なクイズを出しますので、
みなさんも答えてみてください。

確証バイアスについて説明したあとですので
正解できると思いますよ。

問題:
「自己肯定感」と「リーダーとしての資質」の
関係について調べる研究をしました。

リーダーとしての資質が高い人を
1000人集めました。

そのうちの990人は自己肯定感が高く、
10人は低いという結果でした。

他に情報はないものとした場合、
「自己肯定感」と「リーダーとしての資質」の
関係について言えることは、
次のうちどれでしょうか。

1)自己肯定感が高ければ、
リーダーとしての資質も高いと言える。
2)自己肯定感とリーダーとしての資質には
関連性は一切ない。
3)これらのデータから導き出せる結論は
何もない。

皆さんいかがでしょうか。

1000人中990人が
自己肯定感が高いのですから
多くの人は1)を選びます。

これが「確証バイアス」なのです。
今説明したばかりなのに、
間違える人が続出します。

このように人は、
自分の信念を裏付けるデータばかりを集め、
そうではないデータには
目を向けようとしないのです。

つまり、ここにはリーダーとしての資質に
乏しい人に関するデータが全くないので、
そのデータを見ない限り何も言えないのです。

例えば、リーダーとしての資質に乏しい人も
99%が自己肯定感が高いのであれば、
リーダーとしての資質と自己肯定感には
関係性があるとは
言えなくなってしまうのです。

ですから答えは3)となります。

このように、
人は簡単に確証バイアスの罠に
まってしまうのです。
(続く)

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