ブログ:状況が無意識に影響を与える

先週も紹介した
相良奈美香著、
行動経済学が最強の学問である」を読むと
人間の非合理的な意思決定や行動は
認知バイアスだけではなく、
状況やちょっとした淡い感情にも
影響を受けてしまうことがよくわかります。

今回は置かれた状況によって、
人はいかに
非合理な意思決定をしてしまうのかについて
見てみることにしましょう。

例えば、3種類のワインが
全く同じであることを隠し、
どれがあなたの好みかとたずねます。

すると半分以上の55%の人が
最初に飲んだワインが
一番おいしいと答えます。

なぜこのようなことが起こるのかというと、
人は初めに得た情報が印象に残るため、
それを選ぶ確率が高くなるからです。

これが「初頭効果」です。

このように提示する順番は、
人の意思決定に、知らず知らずのうちに
大きな影響を与えているのです。

また「単純存在効果」という、
人は他人が存在しているだけで、
影響を受けてしまうということも
知られています。

例えば、披験者に5ドルを渡し、
小売店の電池コーナーで
電池を一つ買ってきてもらい、
おつりはもらえるという実験が
行われました。

その結果、
周りに他の客がいないときには
33%の披験者が一番高いメーカーの
電池を購入しました。

ところが、周囲に1人他の客がいると
それが42%に増え、
周囲に3人いると63%に増えたのです。

もちろん、周囲の客は
知り合いでもなんでもなく、
見られたり話しかけられることもなく、
ただ風景のように存在しているだけです。

被験者自身も、
他者の存在に影響を受けたという
自覚はありません。

実際、
なぜこの電池を買ったのかとたずねても
メーカー品の方が長持ちすると思った、
といった答えしか返ってきません。

このように、状況や環境は
無意識レベルに影響を与え、
人の行動に変化をもたらしてしまうのです。

また情報が多すぎると判断を誤り、
選択肢が多すぎると
どれも選べなくなることも知られています。

例えば100種類のビールから
好みのものを選べと言われても
選べません。

逆に選択肢を少なくすることで
迷わないようにするという方法も
日常生活では有効です。

スティーブ・ジョブズは
黒のタートルネックしか着ませんでしたし、
オバマ元大統領も
「スーツは3着しか持っていない」と
述べています。

このように、あまり重要ではない選択には
労力と時間を費やすことをやめ、
もっと重要な選択に
エネルギーを注ぐという考え方も大切です。

また、「何」を「どう」
提示するかによっても
人の判断や行動は
大きく変わってしまいます。

例えばあるワインショップでの
研究があります。

週ごとに店内で流す音楽を変え、
売れるワインの傾向を調べました。

すると、フランを連想させる
BGMを流した日には、
客の83%がフランスワインを購入、
逆に、ドイツを連想させる
BGMを流した日は
客の65%がドイツワインを買いました。

その際、どんな音楽が流れていたかを
自覚していた人は15%しかおらず、
85%の人は音楽に気づかずに、
その影響を受けていたのです。

また、よくあるのが「おとり効果」です。

例えば電化製品を売っているお店で、
3万円のプリンターを単独で
置いておいてもあまり売れません。

しかし、それと一緒に
5万円のプリンターを置いておくと
3万円のプリンターは
売れるようになります。

このように比較対象ができることで、
人は3万円を安く感じるため、
単独でおいてあった場合よりも
売り上げが多くなるのです。

この場合、5万円のプリンターは
3万円のプリンターを売るための
「おとり」として置かれているのです。

人の判断は、このように非合理的なのです。

判断に影響を受けるのは、
公平な視点を持っているはずの
裁判官でも同じです。

こんな実験があります。
披験者である裁判官に
まずは、「連続万引き事件」の
調書を読んでもらいます。

その後、
裁判官をA、B二つのグループに分け、
二つのサイコロを振ってもらい、
その合計数を書き留めておいてもらいます。

実は、サイコロには細工がしてあり、
グループAのサイコロは1か2しか、
グループBのサイコロは3か6しか
出ないようになっています。

最後に、最初に読んだ調書の犯人の
刑期を決めてもらいます。

するとグループAの裁判官は
平均「懲役5ヶ月」だったのに対し、
グループBの裁判官は
平均「懲役8ヶ月」でした。

これは、全く関係ないサイコロの数字に
引っ張られてしまった結果です。

しかし、裁判官に
サイコロの数が判決に
影響を与えたかとたずねても
「そんなことはありえない」と
答えていました。

もしも、数字に影響を受けていなければ、
平均の懲役年数は同じになるはずです。

しかし、裁判官という公平な判断を
するはずの人でも
知らず知らずのうちに
ちょっとした状況に影響を受けてしまい、
また、その事実に
本人は気づいていないのです。

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