ブログ:人間、この非合理な生きもの

(前回から続く)
前回のブログの最後の質問、
スキー旅行Aかスキー旅行Bか
どちらをキャンセルするか決めましたか?

結果は、
54%の人がAをキャンセルしました。

つまり、スキーの楽しさよりも
損失が少なくなる方を選んだのです。

これが「サンクコストの誤謬」であり、
非合理な判断をしてしまう認知のクセです。

せっかくつぎ込んだお金が
無駄になると考えると、
それを取り返そうと思ってしまうのは
よくあることです。

おまけに、
労力と時間も費やしていたならば、
なおさらのことです。

何かの研究開発に何年もの間、
精力を傾けてきたにもかかわらず、
なかなか結果が出せないという場合に
サンクコストの誤謬が頭をもたげてきます。

今まで、莫大な労力と時間、お金を
費やしたのだから
今さらあきらめるわけにはいかないと
思ってしまうのです。

その結果、
さらに時間と労力とお金を費やし、
損失をより大きくしてしまうのです。

必ず成功するという気持ちで
やり続けるのも大切ですが、
どこかであきらめるという決断も
重要になる場合は少なくありません。

また、絶対にこんなことはありえないと
思っているのに、
繰り返し見たり聞いたりすると信じてしまう
そんな認知のクセが
「真理の錯誤効果」です。

「このクリームを塗れば驚くほど美肌に!」

こんなうたい文句はいくらでもあり、
使用前と使用後の画像が
明らかに加工されているなどというケースも
少なくありません。

しかし、そんなにうまい話が
あるわけないと思っていても、
何度も目にすることで、
もしかしたら美肌になれるかもと
思ってしまうものです。

人は、真偽が疑わしい情報でも
何度も目にして、それに馴染んでくると
いつの間にかその情報を
取り入れてしまうクセがあるからです。

この部分を読んでいて、
かつて、おまじないでイボが取れた
患者さんのことを思い出しました。

以前、指にできたイボに対して
何年も皮膚科で液体窒素での治療を
受けているにもかかわらず、
イボがいっこうに取れないと
嘆いている患者さんがいました。

私は、イボは暗示で取れると
信じていますし、
実際、自分の足のイボも取れました。

そのため、その患者さんに
「イボさん、イボさん、取れろ~」と
言いながら、なでることを繰り返すと
2週間くらいで取れると話しをしました。

すると、
「また先生、そんな嘘っぱち言って!」と、
軽くあしらわされてしまいました。

しかし、診察に来る度に
イボがよくならないと嘆くので、
その度に、おまじないで治るという話を
繰り返していました。

すると、何ヶ月かした頃に、
試してみようと思ったようで、
「おまじない」をやってみたそうです。

その結果、
長年とれなかったイボが見事にとれ、
私の外来に来たときに、
喜んで報告してくれました。

その後は、
この患者さんが外来に来たときに
たまたま研修医がいたりすると、
その話を患者さんにしてもらうのですが、
みんな、胡散臭そうに聞くだけで、
未だに信じてくれた研修医はいません。

この患者さんも、
私の話を最初は疑わしいと思っており
全く信じてくれませんでしたが、
何度も言ったので、
どこかでその気になったのでしょう。

これはいい意味での
「心理の錯誤効果」だと言えます。

そう考えると、
「このクリームで美肌に!」と聞き、
疑いつつも実際につけてみると
多少は美肌になるかもしれません。

もっとも、イボのように取れたら
客観的な事実としてはっきりわかりますが、
美肌の判断は自分の主観ですから、
ここにも「思い込み」の入る余地は
あるかもしれませんが‥

話を戻します。

認知のクセは、
実は五感にもあります。

視覚や聴覚など
五感から入ってきた情報は脳で処理され、
その際にも認知のクセが生まれます。

例えば、意図的に笑顔を作って
マンガを読むと面白く感じたり、
前のめりで人の話を聴くと、
興味のない話でも興味深く
感じるようになります。

また、初めて訪問する会社で
温かい飲み物を出されると
相手のことを温かい人だと思い、
冷たい飲み物を出されると、
相手を冷たい人だと感じてしまうことも
よく知られた事実です。

このように、身体感覚も、
無意識レベルに影響を与え、
認知のクセのスイッチを
押してしまうのです。

さらに時間も認知のクセに関係しています。

例えばサービス内容よりも
かかった時間で評価をしてしまうという
認知のクセがあります。

カギを室内のおいたまま
オートロックのドアを閉めてしまい
専門の業者に来てもらい
ドアを開けてもらったとしましょう。

料金が万1万円だったとすると、
1時間かけて開いたのと、
2分で開いたのでは、
当然、2分で開いた方が助かります。

ところが多くの人は、
2分しかかかっていないのに
1万円も取られるの?と、
感じてしまうものです。

あまり早く直してしまうと
ありがたみが感じられないのでしょうね。

このように、
人には様々な認知のクセがあり、
これが日常における非合理的な意思決定に
大きく関与しているのです。

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