ブログ:私の心理療法を振り返って
前回は東豊先生の
P循環療法を紹介させていただきました。
この本を読みながら、
自分が昔やっていた心理療法について
あれこれと思いを巡らせていたので
今回はそのことについて書きます。
私自身、心療内科医時代は
心身症の患者さんの治療をする際、
薬を使わず、
心理療法による治療に明け暮れていました。
当時から東先生は心理療法の分野では
超有名人でした。
何度か一緒にお酒を飲む機会もあり、
とても楽しい時間を
過ごさせてもらいました。
そんなこともあってか、
心理療法の考え方やアプローチの仕方では
東先生から少なからず影響を
受けていると思います。
そうは言っても、
東先生は主に家族のかかわりを扱う
システムズアプローチの専門家であり、
私は個人を対象としたブリーフセラピーを
専門としていましたので、
アプローチの仕方は自ずと異なります。
でも、分野の違いの垣根を超え、
ものの見方や考え方に関しては
大いに参考にさせてもらいました。
その後、緩和ケア医になってからは、
直接的に心身症の患者さんを
治療をする機会は
ほとんどなくなりましたが、
その分、もう少し一般的な人の
悩みや問題の解決について
いろいろ考える機会を持つことができました。
特にセミナーを開催するようになってからは
その傾向がより一層強くなってきました。
では、どのように
私の考え方が変化してきたのでしょうか。
まず、テクニックにあまり
走らなくなりました。
若い頃はテクニック重視でしたら、
魔法のような、みんながあっと驚くような
そんなアプローチに憧れていましたし、
実際あれこれとトライしました。
でも、年を取るにつれ、
テクニックによるアプローチは
どうも本質ではないということに気づき、
今はあまり重視しなくなりました。
ただし、テクニックの背景にある
ものの見方や考え方は重要です。
思い込みを変えるための考え方や
感情や行動を
コントロールするための方法論などは、
応用範囲がとても広いのです。
これらは私の財産になっていますし、
またそのような考え方を知っていることで、
様々なアプローチをする上においても
隠し味としての力を発揮してくれます。
東先生のP循環療法もそうですが、
表向きは誰でもできそうなことを
言っているのですが、
実際にはそうではありません。
一人一人に応じた形で、
P循環療法を説明し、
相手の反応をみて説明を変える、
そんなことができるのは、
それまでの多くの経験の積み重ねが
あるからこそできる業なのです。
また、私のセミナーでは、
こちらが解決策を提案するのではなく、
クライエントはすでに
答えを持っているという前提でかかわり、
それをうまく引き出すような
アプローチや質問の仕方を中心に
教えています。
しかし、実際の臨床の場面では、
こちらからいろいろなコメントや
提案、アドバイスもします。
ただし、ただ単にあれこれと
コメントや提案をするわけではありません。
クライエントの気持ちを緩めたり、
その気になるような話をしたりして、
提案やアドバイスが入りやすい状況を
作る作業も重要です。
そのような下地作りがあるからこそ、
「運動をしましょう」とか
「自分をほめてあげましょう」といった
普通は受け入れられないような提案も
入りやすくなるのです。
また、人は認知のクセがあります。
例えばネガティブな思いに
意識が向きがちになるとか、
ほんのわずかな変化であれば、
全く変わっていないと同じだと
思ってしまうクセです。
このようなクセをうまく利用して、
ネガティブな思いを抱くのが
普通のことなので問題ないと言ったり、
1日1回だけスクワットをするだけでも
運動をしたということになると言うなど、
様々な場面で利用できます。
ただし、あまり細かいことにこだわらず、
どっしり構えてかかわることで、
クライエントに自ずと安心感や信頼感を
持ってもらえるようになることは
すべてのベースであり、
最も重要な視点だと思っています。
それさえ構築できれば、
あとは、ちょっとした「きっかけ」や
「小さな変化」をうまく広げてあげることで
人は自ずと変わっていきます。
そんな、下ごしらえや地ならしをしながら、
あとは、芽が出て花を咲かせるのを
静かに見守ってあげていれば
それでよいのです。
クライエントも最初は、
早くよくなりたい、
早く今の悩みや問題を解決したいと
焦るものです。
でもこちらが、
そんなクライエントの思いに
巻き込まれることなく、
ゆったりとしたこちらのペースに
うまく乗せることができたら、
あとは勝手に人は変わっていくのです。
なぜならば、人は自分を癒やす力、
つまり「心の治癒力」を持っているからです。
私は今、そんな考え方で
クライエントとかかわるようにしています。