ブログ:「反ポジティブ思考」のすすめ

世間では一般的に、
ポジティブ思考がよく、
ネガティブ思考は悪いと
思われている傾向があります。

この考え方を医療の世界に取り入れ、
一大センセーショナルを巻き起こした本が
30年くらい前にベストセラーになった
春山茂雄著「脳内革命」でした。

これは、ポジティブ思考が免疫力を上げ、
それが病気を治すという考え方を
大々的に歌い上げた本であり、
今でもその考え方は様々なところで
言われています。

しかし私は「脳内革命」が
世の中を席巻しているときから、
それに対して異を唱えていました。

確かに医学的には、
ポジティブ思考が免疫力を高め、
病気を治すことにつながるというのは
事実です。

しかし、
「ポジティブ思考が重要」だと言うことと、
実際にポジティブ思考になれることとは
全くの別問題なのです。

当時、すでに心療内科医として
心へのアプローチ(心理療法)で
患者さんの治療をしていました。

その経験を通して学んだことは、
脳内革命の本のように、
「前向きな気持つことの重要性」を
伝えたところで、
前向きな気持ちになれる人など
ほとんどいないということでした。

それどころか、
ポジティブ思考の大切さを伝えると、
「わかってはいるんですけど…」と言われ、
かえって落ち込む患者さんが
大半だったのです。

それは当然のことです。
正しいことだと思っていても、
そんなことできないからです。

大切なのは、
そんなことを言うのではなく、
どうしたら多くのストレスを抱え、
ネガティブな思いで
いっぱいになっている患者さんに
前向きな気持ちになってもらえるような
サポートができるかということです。

つまり、患者さんが
自分を変えようと思うのではなく、
自ずと変わってしまうような、
そんな状況を作ることが重要なのです。

ですから、
ポジティブ思考という錦の御旗を掲げ、
落ち込んでいる患者さんの思いを
変えようと思っても
全くもって逆効果なのです。

では、落ち込んでいる患者さんに
ポジティブな気持ちになってもらうためには
どうしたらよいのでしょうか。

実は、そのポイントが
「反ポジティブ思考」なのです。

ポジティブ思考、
つまり「前向きになる」とか
「自信を持つ」というのは、
現実の自分の裏返しの思いです。

本当の自分はクヨクヨしたり
自信がなかったりすうからこそ、
敢えてそれを否定するような
前向きな気持ちとか
自信を持つといったことに
意識を向けようとするのです。

しかしこれは、
とても不自然なことです。
本当は「黒」なのに
「白」だと思えと言うのと同じです。

一時的、表面的には「白」だと思えても、
そんなメッキはすぐに剥がれ、
本来の「黒」という思考に戻ってしまうのは
火を見るより明らかです。

だからこそ、ポジティブ思考に
なろうなどと思ってはいけないのです。

患者さんの思いが
変わる状況を作るためには、
まずは本来の「黒」という思いに寄り添い、
受け入れることです。

つまり、今のネガティブな思いを
そのまま持っていてもいいよと、
認めてあげる姿勢が重要なのです。

その結果、患者さんは
ネガティブな自分でもいいんだと、
安心するようになるのです。

もちろん心理療法的には、
ネガティブな自分でもOKと
思ってもらえるような工夫は必要です。

いずれにせよ、
今の自分を無理に変えなくてもいい、
ポジティブ思考になんかならなくてもいいと
思ってもらうことが出発点です。

でも、ネガティブな自分を受け入れることで、
少しは気持ちが楽になるので、
その結果、気持ちがだんだんと
上がってきます。

それをうまく利用して、
今の自分にできることをしていき、
小さな成功体験を積んでいけばよいのです。

そのような過程の繰り返しの中で、
自ずと気持ちは前向きになっていくのです。

人はどのような状況に置かれたとしても、
つながりやきっかけ、時間、状況によって
自ずとよい方向に変わってく力を
持っています。

私はその力を「心の治癒力」と呼び、
いかにこれを活性化するかということを
心療内科治療の核に据えていました。

ここで述べた考え方は、
イソップ寓話の「北風と太陽」と同じです。

つまり、ポジティブ思考は「北風」であり、
旅人の外套を無理矢理
脱がせようとする姿勢そのものです。

一方、反ポジティブ思考は「太陽」であり、
旅人が自ずと外套を脱いでしまう状況を
作るという姿勢です。

皆さんも「ポジティブ思考」について
再考してみていただけたらと思います。

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