ブログ:心の悪化力

私は今まで「心の治癒力」について
様々なところで書いたり、
話をしたりしてきました。

心の治癒力とは、
一言で言うと安心感や期待感といった
ポジティブな心の状態が持っている
無意識の力です。

実は、心の治癒力とは反対の働きをする
「心の悪化力」とでも言うべき
無意識の力も存在しています。

そして「心の治癒力」と「心の悪化力」は
同じ源である無意識の力の表と裏なのです。

どちらのスイッチが押されるかにより、
症状が改善したり、
悪化したりするのです。

それを如実に表わす
面白い症例報告の論文があります。

22歳の男性が失恋を苦に、
大量の抗うつ剤を飲んで自殺を図り、
救急搬送されました。

そのときの血圧は80/40であり、
脈拍は110、意識ももうろう状態で、
このままだと亡くなる可能性も
考えられました。

このような場合は応急処置として、
まずは点滴をして血圧を上げます。

ところが点滴を2リットルしても上がらず、
最終的には6リットルもしているのですが、
血圧は100/60までしか上がりませんでした。

そのような処置をしている間に、
飲んだ抗うつ剤について調べたところ、
治験薬であることがわかりました。

治験薬の場合、
実際の抗うつ剤を飲んでいる場合と、
乳糖などでできた全く薬効のない
「プラシーボ」を飲んでいる場合の
両者の可能性があります。

緊急事態なので、すぐさま
治験を行っている製薬会社に問い合わせ、
彼が飲んだのはどちらかを
調べてもらいました。

すると彼が飲んだのは
プラシーボの方だったのです。

つまり、これをいくら飲んでも
薬効はもちろん、身体に対する悪影響も
全くないのです。

そこで担当医が、
本人にその事実を伝えました。

すると15分後には血圧は120/80、
脈拍80に回復したのです。

その後、意識ももどり、
そのまま歩いて帰ったというのです。

このケースでは、飲んだ薬が
たまたまプラシーボだったのですが、
その段階では本人にはわかりません。

失恋に絶望し、
もう、死んでしまいたいと思い、
手元にあった抗うつ剤と思われる薬を
大量に飲んだわけです。

本来ならプラシーボを飲んだわけですから、
悪くなるはずはないのですが、
これでもう死ねるという「思い込み」が、
薬を飲むという「行為」により活性化され、
「心の悪化力」のスイッチが入ったのです。

その結果、
自律神経系のバランスに悪影響を及ぼし、
血圧を下げ、意識をもうろうとさせたと
考えられます。

ところが、
飲んだのはプラシーボだと知らされ、
今度は「心の治癒力」のスイッチが
押されたのです。

これでは死ねないという認識が生じ、
安堵感というか、良い意味での
あきらめ感がでてきたのだと思われます。

そうなれば、
自律神経系の働きは正常にもどり、
自ずと血圧や意識レベルは回復します。

このケースを見ると、
まさに「心の治癒力」と
「心の悪化力」の根源は、
同じであることがわかります。

つまり、どのスイッチが押されるかにより、
無意識が持っている心の力が、
ポジティブにもネガティブにも
働いてしまうということです。

私が心療内科で診ていた患者さんは、
何かしらのスイッチが入ることで、
「心の悪化力」が前面に出てしまい、
その結果、うつや慢性疼痛といった
病気になってしまったと考えられます。

私がやっていた治療は、
様々な心理的アプローチを用いて、
「心の悪化力」の影響力を低下させ、
「心の治癒力」を活性化させることを
していたと言えます。

もちろん、場合によっては
「心の悪化力」のスイッチを
切るという作業をすることもありました。

例えば、その人にとって
ストレスとなっている人からの影響を
最小限にする工夫を一緒に考えます。

それが自己中心的な友達だとしたら、
いかにその友達と上手に距離を持ち、
必要最小限のつながりだけで
すむようにするかといったことです。

これが「心の悪化力」のスイッチを
切るという作業になります。

その一方で、
友達に対する考え方を変え、
罪悪感を持たなくてもいいようにするとか、
その友達に費やしていた時間やエネルギーを
自分のやりたいことや楽しめることに
振り替えるようにするといったことが、
「心の治癒力」のスイッチを押すという
作業になります。

要は、どんな問題であっても
まずは「心の治癒力」のスイッチを
どうしたら押せるかを考え、
同時に「心の悪化力」のスイッチを
どうしたら外したり緩めたりできるかを
考えればよいのです。

この視点さえ持っていれば、
たいていの問題には対応できるのです。

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