ブログ:自尊心は低い方がいい!?

数ヶ月前に出版され、
すぐさまベストセラーになった
橘玲著「バカと無知」(新潮新書)を
読みました。

橘玲さんのことは、
「言ってはいけない」(新潮新書)を読んで
知りました。
これも結構面白かったです。

今回ご紹介するのは「バカと無知」ですが、
これは多くの心理学系の文献を引用しつつ
人が気づいていない自分の本性について
いくつかの側面から書かれています。

例えば、
「ほめて伸ばそうとすると落第する」は、
なるほどと思いました。

以前は、
自尊心を高めることが重要だと言われ、
ほめることの大切さが
強調された時期がありました。

しかしその後の多くの研究で、
結局、自尊心が高いと
成績がよくなるのではなく、
テストでよい点数を取ることで
自尊心が高まるという
当たり前な結論に落ち着きました。

さらに、
先生が「君はやればできる」とった、
生徒の自尊心高めるような対応をとると
かえって成績が下がるという研究も
発表されました。

これは次のような研究です。

学期の最初の試験で、
成績がC、D、Fといまいちだった大学生を
ランダムに3つのグループに分けます。

なおCは及第点、DとFは落第点です。

教授からは、その週の課題の復習問題が
毎週メールで送られてきます。

そのとき、ひとつのグループは
「きちんと計画を立てて勉強しなさい」
というメッセージが、
もう一つのグループには
「君ならやればできる」といった
自尊心を高めるようなメッセージが
付け加えられました。

残りのひとつのグループは対照群として
復習問題だけが送られました。

教授による自尊心を高めるメッセージは
成績がC(ギリギリ及第)の学生には
影響がありませんでした。

しかし、DとFの学生には
はっきりとした
ネガティブな効果がありました。

それは、次の試験の成績をさらに悪くし、
落第必至にしてしまったのです!

なぜこのようなことが
起こってしまったのでしょうか。
それは「自尊心は報酬」だからです。

つまり、教授からほめられることで
自尊心は高まります。

しかし、「君は本来、優秀なんだ」と、
試験を受ける前からほめられてしまうと、
報酬を先に受け取ることになり、
結果、努力しなくなってしまうと
いうのです。

「ほめて伸ばす」という教育の
負の側面がこうして明らかになりました。

では、自尊心は
何の役にも立たないのかというと、
そんなことはありません。

自尊心が高い人は、
失敗に直面しても粘り強く続けることが
できるということも言われています。

逆に、自己中心的で周りに気をつかわず
嫌われやすいといったことも
言われています。

もっとも、このような研究で、
確定的な結論が出ているわけではなく、
その人のタイプや性格にも
左右される部分があるのだと思います。

また、自尊心が高いとか低いとかいう評価は
どうも不適切なのではないかという指摘も
されています。

どういうことかというと、
人は意識していることと
無意識に感じていることが
正反対であることもしばしばであることが
多くの研究でわかっています。

そのため、自尊心が高いと思っていた人が、
無意識レベルでは自尊心が低かったり、
またその逆のパターンもあったりして、
どうも自尊心が高いとか低いという判断は、
一筋縄ではいかないようなのです。

また、自尊心の高い低いは
楽観的か悲観的かという性格傾向で
説明できるという考え方もあります。

もともと楽観的な人は自尊心が高く、
悲観的な人(神経症傾向が高い)は、
自尊心が低い傾向にあります。

自尊心の高いタイプの人は
「自分はみんなから好かれている」と
思っていることが多いのですが、
実際に周囲の評価を調べてみると
自尊心が高くても低くても
好感度に変わりがないことが
わかっています。

つまり、自尊心の高い人が
みんなから好かれていると思うのは、
とんだ「勘違い」というわけです。

グループ討論などで、
自尊心が高い人は、
最初はみんなから好感を持たれますが、
その評価は徐々に下がり、
逆に自尊心の低い人の方が
高くなることもあります。

なぜ、このようなことが起こるかというと、
自尊心が高い人は自分を主張し、
周囲の空気を読まないことも多く、
そのため周囲から相手にされなくなります。

逆に、自尊心の低い人は、
最初は消極的だと思われていても、
次第に協調性があっていいのではと
評価が変わってきたりします。

要するに、自尊心の高い低いではなく、
ときに自分を主張しながらも、
状況に応じて周囲に合わせることも
できるのが一番よいということです。

実際、周囲から自尊心が高いと
思われている人は、
そのように振る舞っているようです。

また、自尊心が極端に高い人は、
協調性が全くないため、
遅かれ早かれ共同体からは
追い出されてしまう運命にあります。

自尊心が高すぎるのも
問題だということです。

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