ブログ:新聞の取材を受けました②

(前回からの続き)
他に緩和ケア一般の話も
いろいろと聞かれました。

例えば、最近は
終末期のがん患者さんだけではなく、
がんの早期から緩和ケアが必要だと
言われるようになりました。

それについて、
この病院では実現できているかと
たずねられたのですが、
これには少々誤解があります。

実は、ここで言う緩和ケアとは
緩和ケアの専門医が行う
緩和ケアという意味ではありません。

緩和ケアは患者さんの身体的苦痛のみならず
精神的苦痛も含めて対応する必要があります。

その意味では、
がん告知による不安や落ち込みなども含め、
心身両面の対応が必要になってきます。

ところが、これらの対応のすべてを
緩和ケア医がやるとしたならば、
とてもではありませんが、
時間も労力も足りません。

そうではなく、
がん患者さんの治療を行う、
一般の外科や内科の医者にも
最低限の緩和ケアの基本を身につけてもらい
がんに携わるすべての医者によって、
がん患者の早期の段階から
緩和ケア的な関わりをしていきましょう、
という意味なのです。

そのため、
そのような医師を対象とした
緩和ケア研修会が全国で開催されています。

しかし実際は
なかなか難しいものがあります。

1~2日だけ緩和ケアの勉強をしても、
それで緩和ケアの基礎が身につくわけが
ありません。

がんの痛みに対する薬の使い方くらいなら
多少できるようになるかもしれませんが、
心のケアとなると
そのような意識を持っている医者以外は
まずできません。

結局、研修会は受けましたが、
何も変わらないという医者が
ほとんどなのです。

ただ、一般の医者に
患者さんの心のケアまで求めるのは
少々、酷かなという気もします。

実際、手術などで治るがんに関しては、
多少説明が下手だったり、
冷たい対応だったりしても、
手術がうまければ、
それはそれで何とかなってしまうという
側面があります。

逆に、優しくて、とても人間性あふれる
いい先生なんだけど、
手術は下手なんだよなあ、
などという医者には
手術はしてほしくないと思うのが
本音なのではないでしょうか。

ですから治療可能と思われるがんに関しては
そこまで緩和ケア、緩和ケアと言わなくても
いいのではと私は思っています。

また、20年前と今とでは
どのようなことが変わってきましたか?
という質問もされました。

一番大きいのは
「緩和ケア」という言葉が
ある程度知られるように
なったということでしょうか。

初期の頃は患者さんに説明する際、
「緩和ケア」と言っても
「棺桶(かんおけ)あ?」と
聞き返されたことが何度もありました。

もちろん最近はそんなことはありません。
それだけ名前は
知られてきたということでしょう。

その分、緩和ケアへの抵抗も
以前と比べると
減ってきているのではないでしょうか。

昔は、緩和ケア=死というイメージが
強くありましたし、
今でも少なからずあります。

しかし、緩和ケアという言葉の普及により、
死に抗うのではなく、死を受け入れようと
思える人が多くなってきた気がします。

実際、最後のときに
延命治療を希望しますかと聞いても、
ほぼすべての人が「望みません」と言って
延命を断ってくることからも
そのことはうかがえます。

またその一方で、
在宅医療への意識が高まり、
緩和ケア病棟で最後を迎えるよりも
家で亡くなることを希望する人が
増えたという印象もあります。

ただし、これには裏があります。

国は医療財政の逼迫のため、
できるだけ医療費を
削減したいと考えています。

そのため入院患者さんをできるだけ減らし、
その受け皿として
在宅医療を推進しているのです。

もっとも病院側も
経営がかかっていますので、
できるだけ入院患者さんを増やし、
かつ入退院の回転を速くしたいという
思いがあります。

今の医療システムでは、
ダラダラと入院をさせておくと
逆に病院の利益が
少なくなるような仕組みになっており、
そのため短期間で退院させる方向で
どこの病院も動いています。

緩和ケア病棟もそのあおりを受け、
以前のように、
最後の時間はゆったりとなどと
悠長なことが言えなくなってきました。

私のところの病院はまだましですが、
全国の多くの緩和ケア病棟では、
入院期間は1ヶ月程度が目安であり、
その段階でまだ元気だったりすると
退院を促されるというのは
珍しくありません。

病院もひとつの会社であり、
利潤をあげ経営を安定させないことには
やっていけないので、
これも仕方のないことなのです。

またナースの絶対的な不足の問題もあり、
緩和ケアは以前のような
ゆっくり寄り添うという
時間的、精神的余裕がなくなってきています。

そうなると、
バタバタした一般病棟とさほど変わらず、
これは「緩和ケアの医療化」と言われ、
全国でも問題になっています。

これも時代の流れなのでしょうか。
世の中はよい方向に進んでいるのか、
逆に悪くなっているのか
よくわかりませんね。

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