(前回からの続き)
では、なぜここまでして高血圧を忌み嫌い
なんとか血圧を下げろというのでしょうか。

それは、慢性的な高血圧が続くことで
脳卒中や心筋梗塞などの病気で
死ぬ率が高くなるからと
言われているからです。

では実際はどうなのでしょうか。

確かに多くの研究からみて、
血圧が高い人は、
脳卒中や心筋梗塞での死亡率は
高くなります。

その場合、血圧を下げることで
脳卒中は心筋梗塞になる割合は
減るというのは確かです。

しかしそれはあくまでも、
上の血圧が160㎎Hg以上の人が主であり、
それ以下の人たちははっきりしたことが
わかっていないというのが事実です。

では、70歳代で血圧が160以上の患者さんが
5年間、薬も飲まずに
高血圧を放っておいたら
どうなるのでしょうか。

実は9割の患者さんは何も起こりません。
しかし10%の患者さんは脳卒中になります。

このデータで判断する限り、
たとえ1割だとしても
やっぱり薬を飲んだ方がいいと
思う人は多いと思います。

では、その人たちが降圧剤をのんだら
脳卒中はほぼ防げるのでしょうか。

実は、そうではありません。
降圧剤を飲んで血圧を下げても、
6%の人は脳卒中になります。

つまり、降圧剤を飲むことで
脳卒中が防げるのは4%ということです。

これが降圧剤による
脳卒中の予防効果です。

ただし、医療の世界では
4%しか?効果がありませんといった
表現の仕方はしません。

脳卒中になる人が、
10%が6%に減ったのですから、
40%も減ったと表現するのです。

つまり、降圧剤を飲むことで
脳卒中になる率を40%も減らせますと
表現します。

この方が、効果があるような印象を
与えられるからです。

同じ事実を見ているのに、
4%の効果とも40%の効果とも
言えてしまうのです。

医療の世界で効果を示す場合、
ほとんどはこのような
表現の仕方をしています。

でも4%であったとしても
脳卒中が防げるのであれば、
それはそれでよいのではと
思われる方も多いと思います。

ところが、こんな研究もあります。

80歳代以上で
血圧が160以上ある患者さん3845名に対して
降圧剤またはプラシーボ(偽薬)を
投与した場合、
脳卒中の発症率がどう変わるかという論文が
2008年にNEJMという有名な医学雑誌に
載りました。

結論を言うと、
降圧剤を飲んだ方が30%も
脳卒中の発症を予防できたというものでした。

実は、これも先ほどと同様、
よい印象を与えるための表現です。

では実際はどうだったのでしょうか。

平均1.8年の期間で、
降圧剤を飲んだ方は51/1933=2.6 %、
プラシーボの方は69/1912=3.6%が
脳卒中を起こしたという結果でした。

つまり、降圧剤を飲むことで
1%だけ脳卒中を減らすことが
できるということです。

ただし、
30%減ったというのもウソではなく、
2.6%÷3.6%=72ですから、
約30%減ったと言えば
言えないことはないのですが‥

また、降圧剤をのむことで
脳卒中がある程度予防できると言いますが、
実際には「先送り」できるということです。

どういうことかというと、
降圧剤を飲んだ場合でも、
1年後には、プラシーボを飲んだ人たちと
同じ割合の脳卒中が発症するということが
データから読み取れるのです。

つまり、薬を飲もうが飲むまいが
96~97%の人は脳卒中になりませんし、
薬を飲んでも脳卒中になる2.6%の人は、
その発症を1年くらいは
先送りできているだけだということです。

さらに、降圧剤を飲むことで、
脳卒中や心筋梗塞による死亡だけではなく、
総死亡率はどうなるかという研究もあります。

医療においては、
総死亡率が重要な指標になります。

なぜならば、
脳卒中での死亡者数が減っても
他の病気などで死ぬことが多くなり、
結局は総死亡率が高くなったというのであれば、
意味がないからです。

では、その総死亡率の研究を見てみましょう。

例えば、郡山市の男女合わせて
41,273人を対象にした
降圧剤治療によるリスクの研究
というのがあります。

これによると、
高血圧治療をしていない40~80代の人では
120/80未満の正常血圧の人と比べ、
130/85未満、140/90未満、160/100未満、
180/110未満、180/110以上のグループは
いずれも総死亡率は
変わらないというのが結論でした。

つまり、高血圧の治療をしなくても
総死亡率は変わらないということです。

一方、高血圧の治療をしたグループは
160/100未満までのグループは、
総死亡率は変わりませんでした。

しかし180/110以上で
降圧剤治療を受けた人は
治療を受けていない人に比べ、
死亡率が5倍高まることがわかりました。

つまり、高血圧の治療することで
かえって総死亡率が
高くなったということです。

こうなると、高血圧の治療により
脳卒中や心筋梗塞で亡くなる人が減っても、
結局、総死亡率が高くなるのであれば、
本当に血圧は下げた方がいいのかという
疑問もでてきます。

実は、この疑問に対して、
2008年に慶応大学医学部のグループが、
その参考になるデータを出しています。

これは、100~108歳の人163名を対象に
食事やトイレ、入浴、歩行、
認知症の程度を総合して
自立度を調べた研究です。

それによると、
自立度は、血圧が高くなるほど高くなり、
上の血圧が156~220のグループが
最も自立度が高かったのです。

また認知症の程度も、
血圧が高い人の方が軽かったと
報告されています。

このような研究から
高齢者では、
血圧が高くなったからと言って、
降圧剤で下げた方がよいのか
逆によくないのかは、
実は今持ってよくわからないというのが
現状なのです。