前回、「心」と「環境」の話をしました。
今回は、それぞれの視点に立った
アプローチの実際についての話をします。

先ずは「心」、
つまり、その人の思いや考え方を
変えるアプローチからです。

心療内科時代、
ふと思いついた「まあ、いいか」療法を
患者さんに試してみました。

すると、思いの外
よい結果がでたことに味を占め、
以来、機会があるたびに
この方法を使って治療をしていました。

これはどのような方法かというと、
不都合な思いが心に浮かび、
そこから抜け出せなくなってしまったとき、
心の中で
「まあ、いいか」と呟くことを
繰り返すという、
ただそれだけのことです。

以前、いつも死にたいという思いが
頭から離れず、
線路を見ると、
飛び込みたくなる衝動に
駆られるという患者さんがいました。

その患者さんに、
そのような衝動にかられたら、
とにかく心の中で
「まあ、いいか」という言葉を、
お経のように繰り返し唱えてと言いまいた。

彼女は早速、それを実行してくれました。

すると、あれほど死にたいという気持ちに
とらわれていたのに、
「まあ、いいか」という言葉を心の中で
たんに繰り返し唱えただけなのに、
やっているうちに思いが薄れ、
数分後には
本当に「まあ、いいか」という気持ちに
なったとのことでした。

これは、
自分の思いを直接的に変えるための
アプローチであり、
まさに「心」に焦点を当てたやり方です。

ただし、
ネガティブな思いを無理やり振り払うとか、
考えないようにするというのとは
正反対のやり方です。

ここでは、
「死にたい」という思いは
そのままにしておき、
それとは別に
「まあ、いいか」と唱える「行動」を
とるのです。

多くの場合、
「思い」は行動することで薄れます。

不安な人は動き回ると落ち着きますし、
怒りはその思いを書きだすと落ち着きます。

ですから、
言葉を唱えるという「行動」でも
思いを変えることができるのですし、
その方が、
ずっと思いを変えやすいのです。

さらに、「まあ、いいか」という言葉には
直接的に思いを変える力もあります。

機械的に繰り返すだけでも、
数分すると、
そこに思いや感情が伴ってきます。

つまり、本当に
「まあ、いいか」という思いに
なってきてしまうのです。

このように、
不都合な思いに対して
直接的、間接的なアプローチを
同時にする仕組みになっているところが
「まあ、いいか」療法の特徴です。

他にも「心」へのアプローチにより
思いを変える方法はいろいろあります。

もっとも一般的な方法は、
意味を変えるというものです。

心理の世界で言う
リフレーミングのことです。

例えば、「暗くて無口な人」を
「冷静で学者タイプの人」と
言い換えることで意味づけを変え、
思い込みを緩めたりする場合などに
よく使われます。

意味づけを変えるアプローチは
なにも心理療法の専売特許ではなく、
日常生活や一般社会の中でも、
ごく普通に行われています。

100年前の昔、アメリカでは
タバコは男性が吸うものであり、
女性がタバコを吸うのはタブーと
されていました。

ところが、当時のタバコ会社が
キャンペーンを展開し、
みごとに、
多くの女性にタバコを吸ってもらうことに
成功したのでした。

古い映画を観ると、
女性がタバコを吸うシーンは
普通にみられることからも
そのような世の中になっていたことが
よくわかります。

では、どのようにして
女性にタバコを吸ってもらえるように
したのでしょうか。

それは、「タバコを吸えば瘦せられる」
「食後のデザートのかわりにタバコを」と、
大々的に宣伝したのです。

つまり、女性がタバコを吸うのは
はしたないという思いを、
痩身効果をもたらし健康にもなる、
という意味に変えてしまったのです。

今の時代では、
タバコで痩せるというのはまだしも、
健康によいとはとても言えません。

しかし、当時はそのようなうたい文句が
堂々とまかり通っていました。

このように何事も、
意味づけを変えることで、
人の思いを正反対に
することができるのです。

このようなことは、
今でも繰り返し行われています。

例えば、ワクチンを打つことは、
コロナへの感染や重症化を防ぐという
意味づけが一般的です。

一方でワクチン接種は、
むしろコロナへの感染を促進し、
かつ、コロナで死ぬ率よりも
ワクチン接種で死ぬ率の方が高いので
打たない方がいいと言っている人もいます。

このように、
どのような意味づけをするかにより、
人の考えや思いは、
全く正反対になってしまうのです。

いま述べたようなアプローチが、
思いを変えるために、
直接「心」に働きかけるという方法です。

次回は、
「環境」に働きかける方法について
お話させていただきます。