ブログ:心と環境
心理の世界では、
「思いが変わればすべてが変わる」
といった考え方に基づいたアプローチが
好まれる傾向にあります。
私が心療内科医として
心理療法に精を出していた頃も、
いかにして患者さんの思い込みを
緩めたり、変えたりするかということに
一生懸命でした。
確かに、思いが人を変えるというのは
事実だと思います。
心配ばかりしている人と、
何事も前向きに考える人とでは、
態度や行動は明らかに違います。
そのような違いが、
仕事や人間関係にも影響を及ぼし、
延いては組織や社会をも
変えることになるというのは、
十分理解できます。
しかしその一方で、
なぜかスッキリしないところがありました。
それは、人の内側と外側を明確に分け、
内側、つまり心や身体を中心におき、
その外側、つまり環境には
あまり重きを置かないという点です。
ところが、10年程前から、
私の考え方は少々変わってきました。
心に影響を及ぼすのは「環境」であり、
環境も心に勝るとも劣らず
大切なのではと思うようになったのです。
実は、以前から
「アフォーダンス」という考え方に
興味があり、本も読んだりしていました。
内容を十分に理解するまでには
至っていませんが、
私なりの理解で、
これを一言で言うならば、
人の心や行動は「環境」と結びついている、
という考え方です。
詳しい定義などはさておき、
アフォーダンスの考え方をヒントにし、
自分なりに考え方を広げた結果、
「環境が心を作る」という考え方を
するようになりました。
なお、ここで言う「環境」とは、
たんなるモノ的な環境だけではなく、
自分を取りまく、
すべてのつながりやかかわり、
あらゆる外部刺激のことを意味しています。
つまり、
衣食住や自然環境はもちろんのこと、
家庭環境や仕事環境、社会環境や文化、
知り合いや友人、ペットの存在、
音楽や香りなど、五感に働きかけるもの、
これらすべてが「環境」に含まれます。
簡単な例を見てみましょう。
例えば、赤色を見ると
人はやる気が出てきたり、
気分が高揚したりすます。
逆に青色は、
気分を落ち着かせる働きがあります。
このように、色という環境は
人の思いを左右するという側面があります。
これが、環境が心を作るという意味です。
日常生活においても、
このような例は枚挙にいとまがありません。
例えば、赤ちゃんは、
両親のかかわりにより成長し、
次第に「心」も育っていきます。
また、幼少期から現在に至るまで、
様々な人とのかかわりや、
たくさんの経験を通して、
人は自分の思いや考えを持つようになり、
将来の方向性を決めたりします。
もちろん、大人になってからも
成功と失敗を繰り返しながらも試行錯誤し、
次第に自分なりの考え方を
持つようになっていきます。
これらはすべて、
そのとき、そのときの「環境」です。
要するに「環境」が
その人の「気づき」を促したり、
「つながり」や「きっかけ」を通して、
新たな思いを形成しているということです。
こう考えると、
思いや考え、さらにはそれに伴う行動は、
「環境」を抜きにしては
考えられないのです。
そのような思いを抱くようになってからは、
「環境」が人の「心」を作っていると
考えるようになったのです。
もちろん、実際の環境と心とのつながりは、
双方向的であり、相互作用もあります。
ですから、幼少時期の家庭環境が
その人の「心」に
影響を及ぼすという側面は認めますが、
それが「心」のすべてを決めるわけでは
もちろんありません。
「環境」が「心」を作るというのは
ひとつの側面であり、
その一方で、
自分の思いが人間関係を改善させ、
会社や地域、ときには国を変えるという
「心」が「環境」を変えるという側面も
当然あります。
ただ、心の持ち方や考え方に重きが置かれ、
今現在の「環境」が心を作っているという側面は
誰もが知ってはいるものの、
あまり重視はされていないように思うのです。
だからこそ、
もう少し前向きな気持ちを持てとか
クヨクヨするなといった、
直接的に心を変えようとするようなことを
言ってしまうのです。
もし、環境による影響を大切にするならば、
自分を前向きにさせる
「きっかけ」になるものは何かと考えます。
例えば、
歌をうたったり小説を書いたりすることが、
その人を前向きな気持ちに
することがわかれば、
それをもっと広げていきます。
その結果、歌手や小説家を
目指すようになるかもしれません。
たとえ、そこまで至らなかったとしても、
一生懸命に取り組んだ経験が、
自ずと前向きさを培う可能性は
十分にあるのです。
ですから、
心の持ち方とか考え方といった、
人の内側にばかり目を向けるのではなく、
人の外側にある
「環境」に目を向けることが、
結果として、
心を変えることにつながるのです。
今はこのように考えているので、
「心」に目を向けると同時に、
「環境」にも目を向け、
悩みや問題の解決に
取り組むようになりました。
自分自身に行き詰まりを感じてる方は、
内面ばかりでではなく、
外側にも目を向けてみては
いかがでしょうか。