30年ぶりくらいに、
幼少期の両親とのかかわりが
今の自分の思いや行動に
大きな影響を及ぼしているという類の本を
読みました。

それは、
『「本当の自分」がわかる心理学』で、
シュテファニー・シュタールという、
精神分析的なアプローチをしている
セラピストが書いた本です。

ドイツで4年連続1位の売り上げ、
150万部のベストセラーという
帯がついていたので、
だったら一度くらい、
目を通しておこうという思いで買いました。

実を言うと、
私は幼少期の両親とのかかわりが
今の思考や行動パターンを
決めるという考え方が
あまり好きではありません。

もちろん、親の影響などないなどと
言うつもりは毛頭ありません。

小さい頃に親から虐待されたり
否定的なことばかり言われて育てば、
当然、自分の価値観や考え方に
少なからず影響を及ぼすと思っています。

ただ、精神分析療法のように、
過去の体験を思い出し、
そこで刷り込まれた「思い込み」を
修正しなければ、
今、抱えている悩みや問題を
解決することはできないという考え方には
同意できません。

なぜならば、
目の前にいるクライエントは
過去に生きているのではなく、
今に生きているからです。

過去の体験により
刷り込まれた「思い込み」であっても、
その「思い込み」を持っているのは
「今」の自分なのです。

そうであれば、
過去をあれこれ掘り返さなくても
今の「思い込み」を扱うだけで
十分対応できると思っています。

人は誰でも自分を癒す力を持っています。
つまり「心の治癒力」があるのです。

その「心の治癒力」を発揮することで、
過去にどんな辛い思いをしたとしても、
その思いを癒すことはできるのです。

私はそのような信念のもと、
「心の治癒力」を
うまく引き出すかかわりを通して
長年、心療内科医として
患者さんの治療にあたってきました。

その際、
過去の辛い体験やトラウマに関しては
ほとんど触れることはありませんでした。

なぜならば、
たとえどのような体験をしたとしても、
今の自分が持っている「心の治癒力」を
うまく発揮するようなサポートさえできれば、
過去の「思い込み」は自ずと修正され、色あせ、
次第に影響力を失っていくからです。

ですから、
多くの人が思い出したくもないと思っている
幼少期の嫌な体験や辛い出来事などには
全く触れることなく
今抱えている悩みや問題を
解決することはできるのです。

逆に、
精神分析的なかかわりをするセラピストは、
クライエントに、
そのような過去の辛い体験を思い出させ、
直視してもらうという作業が
必要不可欠だと考えています。

それによるメリットや
それが問題解決につながることも
あるでしょう。

ただその一方で、
メリット以上に
デメリットの方が大きいのではと
心配になってしまうのです。

つまり、心の奥底に押し込んでいた
過去の辛い体験や思いを
引きだしてしまうことによる問題です。

人は誰でも、
嫌な思い出には目を向けたくありません。

そんな思いに囚われてしまっていては
「今」を前向きに生きられないからです。

そのため嫌な思い出は、
心の底に閉じ込めてしまい、
普段は表に出てこないようにする
「抑圧」という無意識の働きがあるのです。

つまり、
「抑圧は」は自分を守るために必要な
ひとつの防衛反応なのです。

しかし、精神分析のセラピストは
この「抑圧」を良いことだとは
思っていないようです。

「抑圧」のふたを外し、
今まで避けていた、
心の底に押し込んでいた嫌な思いを
直視してこそ、
本当の問題解決になると
考えているからです。

これは、
心の傷も壊れた機械と同様、
その原因を見つけ、修繕しなければ
よくならないという
原因志向的な考え方に基づいています。

そのため、精神分析的なアプローチでは
思い出したくなかった過去を思い出させ、
それを直視するという作業が
大切になってくるのです。

しかし、これは不快で辛い作業であり、
場合によっては、
当時の体験がフラシュパックして
パニックに陥る人もいます。

それで今の悩みや問題が
解決するのであれば、
そのような一時的な苦痛も
乗り越える意味があると思います。

しかし、そのような体験によって
悩みや問題が解決するどころか、
長年、忘れていた嫌な思い出が、
再び頭にこびりついてしまうようなことも
当然あります。

そうなると、
今までは何とかやってこられた日常なのに、
その悪影響を受けることで
それがままならなくなるということも
十分にありうるのです。

よくなりたいという思いで
セラピストのところを訪れたのに、
かえって落ち込んでしまったのでは
何のためのセラピーなのか
わからなくなってしまいます。

そのような理由で、
私は、幼少期の嫌な思い出を
引きだすようなかかわりは
あまり好きではありませんし、
また、上記のデメリットを上回る程の効果が
あるようにも思えません。

そうは言いながらも、
実は私自身、
心療内科医になりたての頃は
この精神分析療法を中心とした治療を
していました。

しかし、とても歯がゆい体験を
いろいろとしたこともあり、
結局、最初の数年やっただけで、
その後はやめしまいました。

ただ、この本を読んで、
新たな発見もありました。

それについては次回お話させていただきます。