ブログ:私もウソつき

前回は、知らず知らずのうちに
誰もがウソをついている
という話をしました。

当然、私もウソをついています。
ただ、私の場合は、
無自覚でウソをつく場合もありますが、
意識的にウソをつくこともよくあります。

患者さんに対しては、
前回、紹介した
良心的なウソはしばしばつきます。

「いつでも連絡くださいね」というウソは
日常茶飯事ですが、
「この薬を飲めば痛みは取れます」
「今の状態なら全く問題ありません」
「最期は楽に逝けます」なども、
よくつくウソです。

「この薬を飲めば痛みは取れます」
と言いながら、
「絶対」はないということなど
百も承知で言っています。

真実を言うのであれば
「痛みが取れることはありますが、
必ず取れるというわけではありません」
「ほとんどの場合、痛みは取れますが、
取れないときもあります」
と言うべきでしょう。

でもそれが真実であっても、
そんな曖昧な言い方はせず、
断定的に「痛みは取れます」と
言い切ります。

これは明らかなウソですが、
でも、このウソは有用です。

なぜならば、人はそう言われると
本当に効くと思ってしまい、
その思いが脳内モルヒネを分泌させ、
実際に痛みを軽減させる効果が
あるからです。

先日も、
痛みを訴えている入院患者さんに、
痛みが取れますよと言って、
麻薬系の貼り薬を処方しました。

その薬は貼ってから
12時間くらいして初めて
鎮痛効果がでてくるのですが、
その患者さんに確認したところ、
貼って1時間もしないうちに
痛みが取れたと言っていました。

もしも私が12時間くらいしたら
効いてきますよと「真実」を言っていたら、
こんなに早くは効かなかったと思います。

こんなことがよくあるので、
私は意識的にウソを言うようにしています。

「今の状態なら全く問題ありません」も
当然ウソです。

末期がんの患者さんが、
「全く問題ない」などということは
ありえるはずがありません。

本当の意味は、
今くらい食べられたり、
動いたりできているのであれば、
「すぐに」亡くなるようなことはないので、
その点からすれば「全く問題ありません」
ということです。

ちなみに、
末期がん患者さんの最後は
急速に悪くなります。

亡くなる3か月前だと
今までと同じような生活をしている人が
ほとんどです。

亡くなる1か月前でも、
食べたり動いたりする量は減りますが、
まだ何とか自宅で過ごせます。

ところがその後は急速に悪くなります。
最後の1か月は週ごとに悪くなり、
最後の1週間は日ごとに悪くなり
そして亡くなるという経過をたどります。

ですから、1か月前の状態を見る限り
本人や家族は1か月後には
もう死ぬなどとは
あまり予想できないと思います。

それくらい最後は
急速に悪くなります。

そのような事実は
患者さんや家族には伝えますが、
多くの場合は、
なかなか実感として理解できません。

だからこそ、
状態がまだ安定しているときには、
できるだけ「全く問題ありません」と
言ってあげるようにしています。

その方が、
いつ死ぬのだろうかと
不安を抱きながら過ごすよりも
ずっとよい時間が過ごせると
思っているからです。

「最期は楽に逝けます」というウソは
すべての患者さんに言っています。

緩和ケア医としては
「最期は楽に逝ける」ように
努力するのは当然ですが、
絶対という保証はありません。

そういうことは重々承知していますが、
患者さんに安心感を持ってもらうために、
堂々とウソをつきます。

誰もがそうだと思いますが、
最期は苦しみたくないと思っています。

ですから、そう言ってあげることで
患者さんはとても安堵します。

しかし現実は、
すべてがうまくいくわけではありません。

もちろん、明らかに苦しんでおり、
何とかしてあげなくてはと思った場合は、
麻酔系の薬を使い、意識を落とすことで
苦痛を和らげるということもします。

ところが中には、
身体的にはまだ余裕があるにもかかわらず、
精神的に追い詰められてしまい、
「早く逝かせて」と懇願される場合も
しばしばあります。

さらに、患者さんが
苦しんでいるように見えても、
実際にはすでに昏睡に近い状態であり、
苦痛を感じることはないだろうと
思われる場合もあります。

そんなときでも、家族から見ると
「苦しそう」と感じてしまうため、
「何とかしてあげて下さい」と
言われてしまいます。

ですから、
「最期は楽に逝けます」などと、
実は、簡単には言えないというのが
現実の世界なのです。

もちろん、その一方で、
本当に眠るようにして
穏やかな最期を迎える人もいます。

その意味では、
「最期は楽に逝けます」という言葉は
全くのウソではありません。

このように私は日常的に、
ウソをたくさんついています。

でも、このようなウソは
許して頂けますよね。

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