ブログ:数字の見せ方で判断が正反対になる!
前回はグラフの示し方いかんで、
判断が正反対になるという例を
お示ししました。
今回はその続きで、
数字の見せ方いかんで、
判断が正反対になるという例を
お見せしたいと思います。
現在、乳がん検診において、
マンモグラフィーが盛んに行われています。
多くの研究により、
マンモグラフィーを受ける方が
受けないよりも乳がんでの死亡率が
低下するという結果を受け、
マンモグラフィーを受けうることが
勧められています。
その一方で、
有用性が疑問視されているデータも多く、
そのためアメリカでは40歳代の女性には
マンモグラフィーは推奨されていません。
もっともこれは、陰性なのに
陽性の可能性が疑われる“偽陽性”が
若い世代で非常に多く、
本来は不要である検査や手術が
行われてしまうリスクが
多く見受けられるという理由からです。
さて、本題に入りましょう。
名郷直樹著、
「健康第一」は間違っている(筑摩選書)には
こんな例が載っています。
乳がんによる死亡 | ||
---|---|---|
マンモグラフィー検査 | 558人 (0.19%) |
297,254人 (99.81%) |
747 (0.23%) |
317,768人 (99.77%) |
これは健診として、
マンモグラフィー検査を受けている人と
受けていない人では、
乳がんの死亡率に
どれくらいの違いがあるかを調べた研究です。
この論文の結論から言うと、
マンモグラフィーを受けた方が
受けないよりも「相対リスクが20%低下する」
というものです。
表を見ても、
検査を受けた方が死者数は減っているので
マンモグラフィーを受けることで、
乳がん死亡率が20%も下がるんだという
思いを持つかもしれません。
しかし実際はそういう意味ではありません。
どういうことか説明しましょう。
マンモグラフィーを受けた297,812人のうち、
乳がんで亡くなったのは558人であり、
全体の0.19%でした。
一方、マンモグラフィーを受けなかった
318,515人のうち、
乳がんで亡くなったのは747人であり、
全体の0.23%でした。
これが示すところは、
乳がんで亡くなるリスクが0.23%なのが、
マンモグラフィーを受けることで
0.19%に低下したということです。
論文では
「相対リスク」と言う言葉を使っていますが
これはリスクの割合が
どの程度軽減したかということです。
「相対リスク」とは
0.19/0.23=0.8と計算される値のことです。
要するに、リスクが0.8になったので、
これをもって、
20%リスクが減ったと言っているのです。
一般の人が「相対リスク」と言われても、
ピンとこないと思いますが、
この文章だけを読んだら、
そうなんだと思ってしまいます。
では、実際には
どれくらい死亡率が低下しているのでしょうか。
ここで示されている
0.23%や0.19%というのは
「絶対リスク」と呼ばれるものです。
つまり、全体の何パーセントの人が
亡くなるのかという数値であり、
私たちは通常、リスクと言えば
こちらを思い浮かべます。
これで計算すると
0.23%-0.19%=0.04%となります。
要するに、マンモグラフィーを受けることで
乳がんによる死亡率が
0.04%低下したということです。
たった0.04%だけと思った人も
多いと思いますが私もそうでした。
薬の副作用などでも
0.1%以下でしか起こらないものを
「稀に起こる」副作用と表現されます。
0.04%と言うと、
「稀」よりも低い頻度なのです。
ただ、こんなデータを見せられたら、
ほとんどの人は
マンモグラフィーによる検診など
受けなくなってしまいます。
当然ですが、
マンモグラフィーでの検診を
勧めているクリニックでは、
このようなデータの示し方はしません。
ですから、
「絶対リスク」ではなく、
「相対リスク」という表現を利用して、
あたかも乳がんの死亡率が、
20%も減らせたという錯覚を誘っているのです。
これは詐欺と言われてもおかしくないですし、
広告の世界では「誇大広告」に
当てはまるかもしれません。
でも医療の世界では
ごく普通に行われている見せ方です。
最初にも言いましたが、
マンモグラフィーによる擬陽性、
つまり本当は乳がんではないのに、
乳がんの可能性があると
診断されてしまうことで、
過度の心理的負担や
不要な手術を受けるリスクもあります。
ちなみに、2011年の乳がん学会で
東北大学腫瘍外科の河合賢朗氏らの発表によると
マンモグラフィーによる擬陽性率は
13%とのことでした。
さらに、擬陽性の人に、
2ミリほどの針を刺して取った組織を
顕微鏡で見るという「生検」をした率は
0.9%でした。
最終的には
乳がんではないという判断になるのですが、
この人たちは、最終結果がでるまで、
乳がんかもと不安を抱えることになりますし、
しなくてもよい痛い検査までしたわけです。
当然、擬陽性率が13%もあるなどという
あまり知られたくないデータは、
当然、表には出しません。
自分らに都合の悪いデータを
都合のよいように見せるというのは
医療の世界に限らず、
どの分野でもしていることです。
ウソは言ってはいけませんが、
データの見せ方や表現の仕方を工夫して
正反対の解釈ができるようにすることは
違法でもなんでもありません。
だからこそ私たちは、
グラフや数値に騙されることなく、
データを正確に理解、解釈する力を
身につける必要があるのです。