最近、認知バイアスの講演をする関係で
その類の資料をいろいろと集めたのですが、
その際、グラフの見せ方いかんで、
人の判断を正反対にできるということを
つくづくと感じました。

例えば、たばこと肺がんの関係です。
最初に言っておきますが、
私はタバコは嫌いですし吸いませんし、
がんや呼吸器疾患との関連は
少なからずあると思っています。

そのような私の好みや見解はさておき、
以下の図1のグラフをぜひ見てほしいのです。

これは肺がん患者さんの中で、
どれくらいの人がタバコを吸っているかを
示したグラフであり、
男性は55%、女性は16%でした。

これを見る限り、
少なくとも男性では、
タバコを吸う人は肺がんになりやすいという
イメージを与えることができます。

ところが、
喫煙者のうち、
どれくらいの人が肺がんになるのかを見ると
そのイメージは一変します。

なんと、
男性の99.8%、女性の99.9%は
肺がんにはならないのです!

つまりタバコを吸っても
そのうちで肺がんになるのは、
1,000人のうちの1人か2人ということです。

もちろん喫煙は、
肺がん以外のがんとの関連も
指摘されているので
がん全体の率を見たら
もう少し増えるかもしれません。

しかし、肺がんに限ると、
喫煙の有無と肺がんとは
ほとんど関係ないということに
なってしまうのです!

実際、喫煙率は年々下がってはいますが、
厚生労働省「国民健康・栄養調査」の
令和元年の統計データを見ると
日本の喫煙者は2,154万人(16.7%)おり、
男性は約1,661万人、女性も約493万人います。

一方、肺がん患者さんは、
11万6,000人であり、
そのうち喫煙をしているのは
4万9,000人です。

つまり、
4万9,000人÷2,154万人=0.0023となり、
この数字を見る限り、
喫煙者の中で肺がんの人は0.23%と、
とても低い率になります。

図1を見る限り、
タバコを吸うと
肺がんになりやすいと感じますが、
図2を見てしまうと、
な~んだ、タバコを吸っても
肺がんには、ほとんどならないんだと
思ってしまうことになります。

つまり、判断が正反対になるのです。

もう少し違ったグラフを見て見ましょう。

今度はタバコを吸っている人と
吸っていない人とでは、
肺がんになる率が
どれくらい違うのかを見たグラフが図3です。

これを見る限り、
男性は3.2倍、女性は2.3倍、
喫煙者の方が肺がんになりやすいと
いうことになります。

ところが、
今度は喫煙の有無によって、
肺がんにならない率、
つまり非肺がん率を比較すると
以下の図4のグラフになります。

このグラフを見ると、
肺がんにならない率は、
喫煙者は99.8%、非喫煙者は99.9%で
その差は0.1%です。

こんなグラフを見せられたら、
誰でも喫煙しようがしまいが、
肺がんになりやすさの程度に
差など全くないと思ってしまいます。

ちなみに図4の、
ほとんど埋もれて見えない程度の違いを
拡大して見せたものが図3なのです。

図3の目盛りを見て頂ければわかるように、
0.8%と0.25%とを比較するから、
3倍以上の差があるように見えるのです。

タバコの有害性を訴えたい立場からすれば
当然、図3のような見せ方をして、
いかに喫煙すると
肺がんになりやすいのかを
訴えたいわけです。

でも同じデータを図4のように、
違った側面からグラフにすると、
全く異なる結果に見えてしまうのです。

当然、禁煙を勧める立場からすれば、
喫煙の有無により肺がんにならない率は
ほとんど変わらないなどという事実は
知ってほしくありません。

ですから、
このようなグラフを作成することは
決してありません。

誰でもそうだと思いますが、
自分らの主張に反するようなデータがあれば
何とか工夫して、
見せ方を変えることで、
主張にあったデータに見えるように
しようとするのです。

最初にも言いましたように、
私はタバコは吸わない方がいいと思っています。

でも、ここで言いたいのは
いかに同じデータであっても、
見せ方いかんで正反対の結論を
導くことができてしまうかということです。

このようなグラフや統計のトリックは
いたるところで行われています。

当然、医療の世界でも
このような操作は当たり前にされています。

そのような事実をしっかり認識したうえで、
グラフは見る必要があるということを
是非、知っておいていただきたいと思います。