どの分野でもそうですが、
超有名人や天才と言われる人はいます。
野球で言えば大谷翔平、
将棋で言えば藤井聡太のような人です。

勝負の世界では当然トップが注目され、
2位以下は敗者となってしまうため、
あまり見向きもされないという
厳しい現実があります。

それなりの実力があっても、
超一流でなければ敗者となりますが、
敗者にすらなれない人たち、
つまり、戦うレベルにまで
到達できなかった人たちが
その何十倍もいます。

プロ野球で言えば二軍、三軍の選手たちです。
プロを目指しているくらいですから、
それなりの実力はあると思いますが、
その人たちは、
自分らの存在すら知られることなく
その世界から消えてくのです。

先日、大崎善生著の「将棋の子」を読み
そのことを痛感しました。

藤井聡太が活躍し始めるようになり、
私も将棋に関心を持ち始め、
本もいろいろと読みました。
(将棋そのものは全くやりませんが)

そこで知ったのですが、
プロ棋士になるためには、
奨励会というプロ養成機関に入会し、
そこで昇級を重ね、
三段リーグを勝ち抜かなければなりません。

その厳しい戦いを突破してこそ、
初めてプロ棋士(四段)になれるのです。

その奨励会に入るためにも、
当然、試験があり、
かつ19歳までという年齢制限もあります。

小学生や中学生で入る子もたくさんおり、
藤井聡太も10歳の時に入会しています。

小学生で入る子たちは
みんな地元では神童と言われた
子供たちばかりです。

小学校低学年で、
将棋が強いと言われる大人たちを
次から次へと打ち負かすのですから
当然、神童と言われるでしょう。

そんな天才たちが集まってくる
奨励会ですが、三段まで上がると
三段リーグに進みます。

ここにはおよそ30名前後が在籍しており、
リーグ戦が年2回行われ、
半年ごとに上位2名が四段に昇段し
プロ棋士になります。

つまり、プロ棋士になれるのは
1年にわずか4名だけです。

当然、何年たっても三段リーグを
卒業できない人もいますし、
その三段リーグにすら
たどり着けない人もたくさんいます。

そのため、これからの人生のことを考慮し
26歳までにプロになれなかったら、
強制的に退会となる仕組みです。

当たり前ですが、
プロ棋士になれる人よりも
プロになれずに奨励会を立ち去る人の方が
圧倒的に多いのです。

小さい頃から神童と呼ばれ、
将来はプロ棋士になる夢を持ち、
人生のほぼすべてを
将棋に捧げてきたにもかかわらず、
26歳で挫折し、行き場を失うというのは
想像を絶する辛さがあると思われます。

「将棋の子」には、
夢か叶わず挫折した天才たちの、
その後の非情なる人生が
切々と綴られています。

高校進学もせず、
すべてを将棋に打ち込み、
将棋以外に取柄がない26歳が
社会で生きていくのはなかなか
厳しいものがあります。

この本の中で、
中心人物として描かれている成田英二も
その一人です。

地元では神童と言われた彼も
17歳で奨励会に入ったものの、
結局プロにはなれず
26歳で奨励会を退会しました。

その後彼は、様々な職を転々とし、
パチンコ屋に就職するもリストラに遭い、
借金まみれになり、夜逃げの上、
古新聞の回収業で
働くという生活をしていました。

すべての人が
彼のような人生を歩むわけでは
ないのでしょうが、
神童と言われた人が、
古新聞の回収業で
何とか生活をつないでいるという現実には
心が締めつけられる思いがしました。

この本を読んで、
藤井聡太のような天才棋士が
日本中から注目を浴びる一方で、
成田英二のように、
誰からも見向きもされず、
棋界を立ち去る多くの天才がいるのです。

勝負の世界とは
こういうものなのでしょうが、
一握りの注目を集め、光り輝く人の陰には、
その何百倍、何千倍という、
挫折し、夢をあきらめた人たちが
いるという現実があることを
忘れてはいけないと思いました。