緩和ケアの分野でも
毎年たくさんの論文が発表されていますが、
その中でも
かなりインパクトのあった論文があります。

それは、緩和ケアの介入により
末期がん患者さんの生存率を
高める可能性があるという論文です。

今まで緩和ケアは、
治療ができなくなった末期がんの患者さんが
行くところというイメージがあり、
そのため早い段階から
緩和ケアを受診するということは
ほとんどありませんでした。

最近は多少イメージが変わり、
抗がん剤治療を受けている患者さんでも
痛みのコントロール目的で、
緩和ケアを受診してくれる患者さんも
増えてきました。

さらに、今後や将来に対する不安といった
心の問題で緩和ケアを受診する人も
少しずつ増えてきている印象もあります。

ですから、抗がん剤治療と緩和ケアを
同時に受けるというのが
一般的になる日も
近い将来訪れるのではないかと
思っています。

そんな思いを後押しするような論文が
2010年のニューイングランドジャーナル
オブメディスンという有名な医学雑誌に
載りました。

それは、末期の肺がん患者さんに対して、
緩和ケアの介入が
どの程度の効果があるのかを調べた論文です。

まず、転移のある肺がん患者さん151名を、
ランダムに、抗がん剤治療を含む
通常のケアだけを受けるグループと
緩和ケアもかかわるグループの
二つに分けました。

そのうち、12週間以上生きた107名を対象に
二つのグループにどのような違いがでたかを
調べたのです。

緩和ケア医は、月に1回程度、
患者さんと1時間ほどの話をします。

その際、患者さんの興味や価値観、
家庭環境などの話を聴きながら、
残りの人生をどのように生きたいのか、
どんなことをしたいのか、
といったことについても
いろいろと話をします。

その結果、
通常のケアのみのグループと比べ
緩和ケアが介入したグループでは
生命や生活の質(QOL)が有意に高く、
また、うつ傾向も低かったのです。

さらに驚くことに、
平均の生存期間に
大きな違いがありました。

通常ケアのグループは
平均生存期間が8.9か月だったのに対し、
緩和ケアが介入したグループは
11.6か月と明らかな違いがありました。

つまり、転移のある末期がんの
患者さんであっても、
緩和ケアが関わることで、
心も体も癒され、
さらには生存率も向上するということです。

この論文を見て、
多くの緩和ケア医は驚くと同時に
とても喜びました。

なぜならば、
緩和ケア=死というイメージが強く、
抗がん剤治療を諦めたら、
もう死ぬしかないと思われていたのに、
実際には緩和ケアとつながりを持つ方が
長生きできるという結果がでたのですから
これは驚きでしょう。

実際、緩和ケアが介入したグループでは
通常ケアのグループよりも
抗がん剤治療を続ける人が
少なかったのですが、
それにもかかわらず
生存率は高くなったのです。

ただしこれは、
効かないどころか、
かえって有害ですらある抗がん剤治療を
ダラダラと続けることをやめることで、
逆に身体への負担が少なくなり、
結果として生存率が
高くなったという解釈も可能です。

ただ、ここで注意しなくては
いけないことがあります。

それは単に緩和ケアを受診してもらい、
症状のコントロールができれば
生存率が高くなるというわけでは
ないということです。

月に1回であれ、十分な時間を取り、
患者さんと真摯に向き合い、
今後のことを
一緒に考えていくという姿勢こそが
緩和ケア介入のポイントだと思うのです。

私も心療内科時代は完全予約で、
初診は1時間かけて診ていました。

多くの患者さんは、
こんなにしっかり話を聴いてくれたのは
初めてだと言われることもしばしばでした。

時間さえ長ければ
よいというものではありませんが、
心療内科の場合、
患者さんと真摯に向き合う姿勢が
症状を緩和するための
大きな要因の一つであったことは確かです。

同じように緩和ケアでも
患者さんと真摯に向き合う姿勢が
心と身体を癒し、
延いては生存期間を延ばすことにも
つながっているだろうことは
想像に難くありません。

いずれにせよ、
たんなる緩和ケアの介入が
生存率を高めるのではなく、
こうした中身のあるかかわりが
必要不可欠になると私は思っています。