心理療法における私の考え方の移り変わり

私は心療内科医になるまで、
心理学や心理療法といったものを
全く学んだことがありませんでした。

大学時代でも「心理学」は学んでおらず、
精神分析をドイツ語で読む授業はありましたが、
これはあくまでも
語学の勉強の意味合いが強いものでした。

医者になってからの3年間は研修医であり、
その間は、内科や外科で
患者さんの治療と勉強に明け暮れていたので
当然、心理学の勉強など
するはずもありません。

そうは言いながらも、
心の世界には関心があったので、
当時は、マズローの人間性心理学や
トランスパーソナル心理学などの本は
読んでいました。

今こうして思い返してみると、
古典的、基礎的な心理学や心理療法には
あまり興味がなく、
新しい心理学の流れの方に
関心があったように思います。

しかしこれらも、
思想的な話ばかりで
実際の患者さんの治療に役立つような
実践的なものではありませんでした。

本格的に心理療法の勉強を始めたのは
やはり心療内科医になってからです。

最初は上の先生に言われるままに、
精神分析療法を勉強し、
それに基づいた治療を行っていました。

ですから、最初の数年間は
精神分析的な考え方で
患者さんの治療をしていましたが、
あまりうまくいった印象はなく、
また私自身、
どこかで違和感を持っていました。

それと並行して、
認知行動療法や森田療法、アドラー心理学、
ブリーフセラピーなどを勉強したのですが、
こちらの方が私には合っていました。

これらの心理療法を学ぶうちに
問題や症状の原因を探すという発想よりも、
先ずは、今ある症状を治すという考え方に
惹かれるようになりました。

その後、
NLPや解決志向アプローチ(SFA)に出会い、
これは心療内科の治療にも使えると思い、
それらのセミナーを受けたのをきっかけに、
ブリーフセラピーにのめり込んでいき、
それが今でも続いています。

そうは言っても
その頃から30年の歳月が流れているので、
私の中でも考え方はだいぶ変わりました。

ただし、
根底にある思いは今も昔も一緒です。

それは、様々な「思い」を
無理に変えようとはせず、
今できる何かしらの行動のうち、
問題解決に役立つと思われる行動を
してもらうという考え方です。

もちろん、そうは言っても、
実際には思い込みを変えるための
様々なテクニックを試したりしてみて、
結構、治療を楽しんでいたところはあります。

つまり、基本となる考え方の上に、
使えるテクニックは
何でも使ってやってみようという
思いで日々の治療をしていました。

ただ、今振り返ってみると、
かなりテクニックに
走っていたところはあります。

心療内科医から緩和ケア医になると、
実際の患者さんに心理療法を使って
治療するということが
なくなってしまったため、
物足りなさを感じるようになりました。

その頃になって、
私はやはり心理療法が好きなんだ
ということに気づきました。

それならば今度は心理療法を
教える立場になろうという思いから、
今やっている
ホリスティックコミュニケーション
実践セミナーをやり始めたというわけです。
今から18年前のことです。

その間も、
私の中ではずいぶんと考え方は
変わっていきました。

特に、「待つ」ということを
意識するようになったことと、
「無意識」を大切にするように
なったということは大きな変化でした。

心療内科時代は、
とにかく治すことが目的でしたから、
「待つ」ことの大切さは
十分に知ってはいたものの、
その一方で、早く何とかしたいという思いが
どうしても出てきてしまっていたのです。

しかし、今はそのような焦りは
なくなりまいた。

今できる最善を尽くしつつ、
同時に、変わるものは変わるけど
変わらないものは変わらないんだから、
バタバタするのはやめて、
自然の流れに任せたらいいという思いが
どっしりと根を下ろしているという感じです。

そして、もうひとつの変化が
「無意識」を大切にするように
なったということです。

これも、当然、昔から知っていましたが、
今は何事も、「無意識」を中心に
ものごとを考えるようになりました。

要するに、相手が
知らず知らずのうちに変わったり
何か知らないけど
やってみようと思うようになったりとか、
そんな状況をうまく作り出せるような
かかわり方を意識するように
なったということです。

そんなかかわり方をすると、
相手も、なぜ自分が変わったのか、
よくわからないということも
しばしばあります。

でも、それでいいのです。
相手は変わったのですから。

私の心理療法における考え方は
このような変遷を経て
今に至っているのです。