先月から始まった
コミュニケーション医学
連続講座の第2回目の準備のため、
プラシーボ関連の本を
新たに読んだのですが、
結構面白い発見がありました。

皆さんもご存知のように、
痛み止めですよと言って、
実際にはでんぷんの粉を渡しても、
それを飲むと半分以上の人に
痛みの軽減を認めます。

この時のでんぷんの粉のように
薬効が全くないものをプラシーボと言い、
それによって生じる
痛みの軽減などのよい反応のことを
プラシーボ反応と言います。

逆に、それによっておこる
副作用のような悪い反応は
ノーシーボ反応と呼ばれます。

プラシーボ反応は
「心の治癒力」そのものであり、
薬を飲むことで生じる期待感や、
「これを飲んだら治る」という思いなど、
無意識が持っている力が関与しています。

それが自然治癒力に作用し、
症状が軽減するのですが、
実際のメカニズムについては
医学的にもまだよくわかっていないところも
多々あります。

さて、今回の新たな発見は、
子供をケアする親や
ペットの飼い主といったケアギバーにも
プラシーボ反応が起こるという事実です。

しゃべれない子供やペットの場合、
評価方法は親や飼い主の
主観に頼ることになります。

ところが、親や飼い主は
当然よくなってほしいという
潜在的な願望があるため、
どうしても「よくなっている」と
評価しがちなのです。

動物の痛みの程度などを
装置などを使って客観的に測定したりすると
プラシーボの投与前後では
全く変化がないにもかかわらず、
飼い主は、少しよくなったように思うという
判断をする傾向があることがわかっています。

このことは、治療に当たっている獣医師にも
あてはまります。

このようにプラシーボ反応は
プラシーボを投与された人だけではなく、
子供や動物をケアするケアギバーの人、
治療に関わる医師や医療従事者にも
生じるのです。

ただし、子供や動物が
本当によくなる場合もあります。

どういうことかと言うと、
プラシーボを投与することで、
親や飼い主の
よくなってほしいという潜在的な思いが
行動に変化をもたらすのです。

つまり、ケアをする人が、
子供や動物に対して今までよりも
気を使ったり親身になったり
するようになるのです。

その結果、
本当に症状が改善するというわけです。

実際、ADHD(注意欠陥多動性障害)の
子どもにプラシーボを投与しても、
明らかな改善が
見られたという報告もあります。

これは医療現場でもしばしば
経験することです。

例えば、末期がんの患者さんは、
病状が進むにつれ、
しばしばうつ状態になります。

そのため、時々ナースの方から、
「抗うつ剤を処方するのはどうですか?」と
提案されることがあります。

そんな場合、ナースの希望にそって
抗うつ剤を出すことがあります。

すると、次の日に
「先日から抗うつ剤が開始され、
今日は少し元気なように見える」といった
カルテ記載や報告をよく経験します。

しかし実際に抗うつ剤が効いてくるのは、
通常1~2週間経ってからです。

ですから、
次の日から元気になるというのは
あまり考えられません。

これなどは患者さん自身の
プラシーボ反応もあるかもしれませんが、
ナースの、改善への期待感の表れとも
理解することができます。

まさにケアギバーであるナース自身に
プラシーボ反応が表れたと
言ってもいいかと思います。

また、以前こんなこともありました。

乳がん末期の30代の女性が
入院していたのですが、
彼女の母親は毎日病院に来て、
娘さんを見守りケアをしていました。

しかし病状は悪化の一途をたどり、
食事も食べられなくなっていきました。

日に日に悪くなっているというのは
誰の目から見ても明らかでした。

ところが母親に
「今日はどうですか?」とたずねると
毎回、「少しニコッとしたりして、
昨日より元気になってきた気がします」
といった返答をするのです。

本心では悪くなっているというのは
わかっているのでしょうが、
どうしてもその事実を認めたくなく、
そのため、あくまでも
よくなっているように見える
瞬間にばかりに注目し、
そのように答えていたのではと
思われます。

人は自分の望む方向に
変わることを期待します。

そのため知らず知らずのうちに
その視点から相手を見てしまうのです。

子供でもペットでも
プラシーボが効くというのは
このような背景があるのです。