前回は、人は無意識レベルで
ステレオタイプの影響を受けてしまうため
自分の能力を十分に発揮できずにいる
可能性があるということを
クロード・スティール著、
「ステレオタイプの科学」(英治出版)から
紹介させて頂きました。

今回は、そのようなステレオタイプの脅威を
どのようにしたら打ち払えるかについて
お話したいと思います。

そのポイントは、
悪影響をもたらす無意識レベルの「思い」を
何かしらの方法で変えるということです。

この場合の「思い」は、
社会の環境や風潮の影響を
受けているだけであり、
実際の自分の信念や思いとは異なるものなので、
変えることは比較的容易です。

例えば、一般的には
男性よりも女性の方が数学は苦手という
ステレオタイプが存在しているため、
同等の学力を持っていたとしても、
女性の数学の成績は低くなってしまいます。

ところがテストの前に、
「この数学のテスト結果には、
男女差はありません」と説明するだけで、
女性の成績不振はなくなるのです!

このように、無意識に刷り込まれている
ステレオタイプを否定する説明をするだけで、
その呪いは解けるというわけです。

また、能力は変わらないと思っている人に、
能力はどんどん高められるということを
説明することによって、
実際、成績があがることも実証されています。
いわゆる「マインドセット」の話です。

興味のある方は
キャロル・ドウェック著、今西康子訳の
『「やればできる!」の研究
~能力を開花させるマインドセットの力』
(草思社)をお読みください。

他にも、
ステレオタイプを解消する方法は
いろいろあります。

自分にとって最も重要な価値、
例えば家族関係や友人関係、
音楽が得意なことなど何でもよいので、
それを二つが三つ挙げ、
その理由を短い文章で説明するという
「自己肯定化作業」もそのひとつです。

これは、自分の価値観を
肯定的なものとしてとらえてもらうための
簡単な方法であり、
作業時間も15分程度のものです。

これをアメリカの人種的に統合された
中学校の1年生を対象に行った結果、
明らかに影響が現れるのがわかりました。

通常、多数の白人と少数の黒人が
混ざっているクラスでは、
黒人の成績が下がり続け、
白人との差が大きくつくのが一般的です。

これは、
「黒人は白人よりも勉強ができない」という
ステレオタイプによる影響だと
言われています。

ところが、
自己肯定化作業を行った黒人生徒は
成績の低下がストップしたかベースが鈍化し、
白人との成績格差が40%も縮小しました。

さらに驚くことに、
自己肯定化作業をした黒人生徒の成績は、
白人生徒との成績格差が
その後二年以上にわたり
縮小し続けたというのです。

一方、
自己肯定化作業をしなかった黒人生徒は、
ステレオタイプの脅威を感じ続けるため、
成績は低下し続けました。

なお、自己肯定化作業をした白人生徒には
そのような成績の改善は
認められませんでした。

これは、自己肯定化作業をすることで、
黒人生徒に対する
ステレオタイプの悪影響が、
なくなったということを意味しています。

このようなことから、
いかにステレオタイプが
学校生活や現実社会に
大きな影響を与えているかが
よくわかります。

しかし、その事実に私たちは
あまり気づいていません。

十分な結果が出せない場合、
本人の才能や努力が足りないからだと
思われてしまう傾向があります。

しかし実際には、
無意識レベルにおいて
ステレオタイプが悪影響を及ぼし、
その人の能力が発揮されるのを
妨げているという側面があるのです。

ですから、
自分がどのような環境にいるのかということや、
少数派であることに
知らず知らずのうちにプレッシャーを
感じていないかということは、
自分の能力を最大限に発揮する上において
とても重要なことなのです。

私などは、患者さんを診る際、
身体のみならず、心にも意識を向けます。

また自然治癒力や心の治癒力を
大切にしているため、
できるだけ薬は少なくするようにしています。

しかし、私の病院では、
このような医者は明らかに少数派です。
(もしかしたら私一人かも!?)

ですから、その意味で私は、
「医者は身体を診て薬で治すもの」という
ステレオタイプの脅威に晒されています。

だから病院では、
自分の能力を十分に発揮できないのかと、
ここでも自分に都合のいいように
解釈をしています。