ブログ:「感情」を考える②

前回紹介した
源河亨著、「感情の哲学入門講義」
(慶応義塾大学出版会)には、
他にもいろいろ興味深いことが
書かれていました。

感情は無意識レベルにも
存在しているという話もそのひとつです。

前回紹介した「吊り橋効果」の話ですが、
吊り橋を渡る際、
さほど恐怖心を感じない人もいます。

高所恐怖症でもない人からすれば、
少なくとも恐怖心という認識は持たずに
渡りきることは十分に可能です。

しかし、身体反応の面から見ると、
固定橋を歩いているときよりも
心拍数は増え、筋肉も緊張します。

しかし、当の本人は、
これらの身体反応には全く気づくことなく
吊り橋を渡りきってしまうことも
普通にあります。

つまり、身体は恐怖に反応していても、
感情はそれを意識するレベルには
達しないという理解も成り立ちます。

このように、
無意識レベルでは感情を感じているのに、
意識レベルでは
それに気づいていないということは
しばしばあります。

このような、無意識レベルで生じる
感情の変化をうまく利用しているのが
メンタリズムです。

メンタリズムの場合、
無意識レベルの
ほんのわずかな表情の変化や
筋肉のこわばりから、
相手の緊張感の変化を読み取ります。

そうすることで、
1,000人規模の会場のどこかに、
お客さんが自分の持ち物を隠したとしても、
その人の身体反応の情報のみから
そのありかを探し当てるというショーが
成立してしまうのです。

また、感情とよく混同されるものに
「気分」があります。
気分と感情の違いは何かというと、
これまた様々な見解があるようですが、
最も理解しやすいのは
対象に違いがあるという考え方です。

つまり、
感情には明確な対象がありますが、
気分には明確な対象があるわけではなく、
いろいろなことに向けられていると
いうことです。

例えば、山道を歩いているときに
ヘビに出くわし、
恐怖という感情を抱いた場合、
ヘビという明確な対象が存在しています。

一方、なんとなく憂うつという気分は、
過去の失敗や未来への不安など、
様々な事柄が入り混じっており、
特定の対象があるわけではありません。

そのため、なぜ気分が滅入るのか、
なぜ不安なのが自分でもわからない
ということがしばしばです。

また、風邪などをひいて
微熱があったりすると、
なんか気分がのらないというのは
誰もが経験していると思います。

逆に、風邪が治りかけると、
それに伴って、
気分も次第に回復してきます。

女性の場合だと、
ホルモン周期により、
気分が大きく変わります。

このように、何かしらの反応が
身体で起こっている場合も、
それに伴って気分にも変化が生じます。

そうであれば、
何かしらの方法で
身体症状をコントロールできれば、
落ち込んだ気分もある程度
改善させることができるということです。

鎮痛剤や解熱剤を飲むというのは
こちらの視点に立った対応だと言えます。

実際、熱や痛みがあると、
全くやる気が起きませんが、
薬でそれらの症状が抑えられると、
気分もましになるということから、
そのことは容易に理解できます。

以前、私は慢性扁桃腺炎があり、
しばしば、扁桃腺が腫れていました。
(13年前に扁桃腺の手術をしたので、
この苦しみからは今は解放されています)

そのときは、痛みを我慢して、
自然に治るに任せていたのですが、
ときに、扁桃腺が腫れて痛むのに、
講演をしないといけないということも
時々ありました。

そんな時は、全くやる気が起こらず、
講演をキャンセルしようかと
思ってしまうくらい気分が滅入るのですが、
ここは仕方ないと割り切り、
嫌いな鎮痛剤を飲むことにしました。

すると当然のことですが、
痛みはだいぶ楽になります。

それに伴い、気分もましになり、
講演をやろうという気も出てきます。

このように、身体症状は
明らかに気分に影響を及ぼします。

ただし、一時的な症状であれば、
薬などによる応急処置でも
十分に対応可能ですが、
慢性的に続く症状は
そういうわけにはいきません。

その時は、
その症状をどのように考え、
どのように受け止めるかという、
認知(思考)の部分が重要になってきます。

私が心療内科医時代にしていた治療は、
まさにこちらの視点からのアプローチでした。

いずれにせよ、
気分や感情には思考的な側面と
身体的な側面が関与しており、
両者の面からこれらへの対応を
考えていく必要があるということです。

他にも、この本には、
感情と理性は対立するのか、
道徳哲学と感情の科学、
恐怖を求める矛盾した感情など
面白いテーマがたくさんあります。

興味のある方は、
「感情の哲学入門講座」を読んでみてください。
とても読みやすい本です。

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