暗示とか誘導とか聞くと、
催眠術をイメージするかもしれませんが、
実は、私たちは日常の中でも
知らず知らずのうちに
暗示や誘導のテクニックが使われています。

その際の暗示は、
催眠の「あなたは眠くなる~」といった
露骨なものではありません。

普通の会話の中に忍び込ませているため、
全く分からないままに
暗示をかけられているのです。

当然、そういうことを知っている人は
上手に人に暗示をかけていますし、
才能のある人は、
本人も知らずに、
人に暗示をかけていることもあります。

日常でよく見られるのは
何と言っても宣伝においてです。

例えば、フットマッサージ機を
定価53,000円のところを、
特別価格29,800円で提供します!
と言われたらどうでしょうか。

安いと思って、
思わず買ってしまう人も
いるのではないでしょうか。

これなどは典型的な暗示効果です。
つまり、53,000円という値段を
見せておくことで
最初はちょっと高いなあと思わせます。
もちろんその値段で売る気は
初めからありません。

そのあとに、
29,800円という値段を見せると
これは安いと思ってしまうのです。

これは比較を使ったテクニックですが、
安いと思ってしまった人は、
まんまと暗示にかけられ、
誘導されたことになります。

このような例は他のもたくさんあります。
安売りセールで
貼り紙に「お一人様3個まで」というように
制限をつけておく方がよく売れます。

これも、「3個まで」という言葉が暗示になり、
早く買わないと損だという気にさせられたり、
2個でもいいのに、3個買わないと
損だと思い込ませるためのテクニックです。

暗示効果に関しては、
面白い研究がたくさんあります。

人は最初に提示されたものを基準に
ものごとを考え判断するクセがあります。

それを実証したこんな研究があります。
15年以上の豊富な経験をもつドイツの裁判官に、
万引きで逮捕された女性の
調書を読んでもらったうえで
サイコロを振ってもらいます。

このサイコロは特殊なもので、
3か9しか出ないようになっています。
(6面に書かれていた数字は不明)

サイコロが止まった時点で、
刑期(月単位)は出た目より
長くすべきか短くすべきかを
答えてもらいます。

最後に、自分が裁判を担当した場合、
その女性に申し渡す刑期を答えます。

すると9が出たグループの
平均刑期は8か月であり、
3が出たグループのそれは5か月でした。

これは、刑期の決定判断とは
全く関係ないサイコロの目の数字に
自分の考えが影響を受けたことを
意味しています。

この場合、
サイコロの目の数字が暗示となり、
知らず知らずのうちに、
その数字に引っ張られる形で
刑期の判断が行われたことになります。

まさに、サイコロの目の数字が
裁判官の判断を誘導しているのです。

もちろん裁判官は、
そんな数字に影響されるとは思っていませんし、
自分の判断が左右されていることにも
気づいていません。
これが暗示による誘導の力です。

他にも有名な研究でこんなものがあります。
大学生の被検者に、
単語を並べて文章を作るという課題を
してもらいます。

グループを二つに分け、
一方には、単語に「白髪」や「杖」、「物忘れ」という
高齢者に関連する単語を入れ、
もう一方には「きれい」や「喉が渇く」といった、
中立的な単語を入れておきます。

課題が終わった後、実験室を出てから
エレベーターのところまで歩く時間を
密かに記録したところ、
高齢者に関する単語で文章を作ったグループは
もう一方のグループに比べ、
歩くスピードが遅くなりました。

もちろん本人たちは、
先ほど行った課題が
歩く速度に影響を及ぼすなどとは
全く意識していませんでした。

しかし、無意識レベルでは明らかに、
高齢者のイメージが植えつけられ、
それが歩く速度に影響を及ぼしたのです。

これなども、
高齢者に関連する単語が暗示となり、
歩く速度がゆっくりになるように誘導されたと
理解することができます。

このように、
私たちは知らず知らずのうちに暗示をかけられ、
判断や行動を誘導されているにもかかわらず、
その事実に全く気づいていないのです。