以前、うちの病院主催で
健康講座を開催したことがあり、
その時の講演を私がしました。

冒頭、「皆さんが健康になってしまったら
とても困るんです」といったことを言いました。

誰もが健康でいたいと思っているのに、
この医者は何を言っているんだと、
多くの人が思ったことだと思います。

でも、これはこの講座を主催した病院の
本音を言ったまでのことです。

多くの人は病気になれば病院に行きます。
場合によっては
入院が必要になることもあります。

当たり前のことですが、
病院で働いている医者が診察や治療をし、
その対価として患者は治療費を払います。

そのお金が病院収入のほぼすべてです。
そこで得たお金で、
医者をはじめとするスタッフの給料が支払われ、
必要な薬や医療器具を購入しています。

つまり、患者は
病院にとっての大切なお客さんなのです。

それなのに、
多くの人が健康になってしまったら、
当然、患者が少なくなるため収入は激減、
病院の経営は成り立たなくなってしまうのです。

特に、入院患者は大きな収入源です。
病院は入院患者で成り立っていると言っても
過言ではありません。
入院患者が少なくなると赤字になり
それが続くと病院は潰れます。

ですから、経営を安定させるためには、
最低限の入院患者を確保する必要があります。
つまり、入院をするような患者さんが
それなりにいてくれないと
困ってしまうのです。

そのため、
健康に気をつけましょうとか言いながらも、
実際には事故や病気になって
入院してくれることを期待しているという
側面も当然あります。

実際、入院患者さんが少なくなると、
できるだけ入院患者を増やすようにと言われます。
これはどこの病院でも同じだと思いますが、
経営上、そうせざるを得ないのです。

病院はボランティアで
やっているわけではありません。
一般企業と同じであり、
利益を上げないことには
経営を維持することができないのです。

だからこそ、
病院が潰れないためにも、
みんながあまり健康になってはいけないのです。

ざっとまあ、こんなことを言いました。
もちろん、冗談ぽくですが。
でも、半分は本音です。

ここで何が言いたいのかというと、
このように私たちは相反する思いを
同時に持ちながらやっている場合が
実はとても多いということです。

何かあったら
いつでも言ってきて下さいねと
言っておきながら、
ちょくちょく相談に来られると、
内心、いい加減にしてほしいなと
思ったりするものです。

でも、本気で
もう来ないでほしいと
思っているわけでもありません。

自分のことを頼って来てくれるのですから、
それはそれで嬉しいのですが、
でも、来過ぎるとちょっと
しんどいなと思ってしまうものです。

人はこのように
矛盾する思いを同時に持っているものであり、
それで成り立っているのです。

これは何も「思い」だけではありません。
生物学者の福岡伸一さんも
動的平行という概念を用いて、
矛盾する現象が同時に存在しているのが
生物であると言っています。

例えば、生物は細胞内で
合成を行いながら同時に分解をしていますし、
細胞膜を見ると、
外から物質が入ってくると同時に
細胞内の物質が外にも出て行きます。

このように生き物は、
矛盾する二つの現象が同時に行われることで
バランスを取っているのです。

ですから、私たちの世界は
相矛盾するものが同時に存在しているからこそ
成り立っているとも言えるのです。

その意味では、
人には優しくしましょうとか、
相手の立場に立って
物事を考えましょうというのは
あくまでも方便であり、
現実的ではありません。

優しい人だって怒るだろうし、
相手のことばかり考えていたのでは
自分の生活すらままなりません。

ですから、
私たちは矛盾する思いを持っており、
矛盾する世界に住んでおり、
矛盾することをしているのです。

でも、それでバランスが取れているのであり、
それでなんとかうまくやれているのです。

ですから、私は声を大にして言いたいのです。
矛盾しているからこそ正しいのだと。

皆さんはどう思われますか。