ブログ:万が一病の背景にあるもの
前回は「万が一病」のお話をしましたが、
今回はその背景にある
脳のクセについてお話したいと思います。
私たちの脳には、
ポジティブなものよりも
ネガティブなものに強く反応する
クセがあります。
これがネガティブバイアスです。
脳に組み込まれたこの特性を
うまく利用しているのがニュースや報道です。
不安を煽る報道の方が、
安心感をもたらす報道よりも
視聴率が格段に高くなるため、
テレビやマスコミはこぞって
ネガティブな話を多くすることになります。
洪水や津波、地震といった災害の恐ろしさを
繰り返し報道したり、
新型コロナウイルス(以下CV)の
感染者数や死亡者数を具体的に示し、
その怖さを強調するのはそのためです。
そんな報道はもううんざりなので、
ニュースは見ない、
新聞も読まないと思っていても
つい見てしまうところが、
ネガティブバイアスの恐ろしいところです。
それに加え、不安や恐怖といった
感情が誘発されるような出来事に出くわすと
事実を冷静に判断するとことができなくなります。
例えば、志村けんがCVに感染し、
亡くなったというニュースなどがそれです。
このニュースを見て不安や恐怖が高まり、
今まで以上に外出を避けたり、
CV感染者への差別やいじめが
現れてきたことからも
その影響力の強さがわかります。
このように、冷静に物事が見られなくなり、
感情にしたがって、
判断や意思決定をしてしまうという脳のクセを
感情ヒューリスティックと言います。
一般の人が亡くなるのと、
志村けんが亡くなるのとでは、
私たちへのインパクトは格段の差があります。
ところが、客観的な視点から見ると
死者数が一人増えたという
事実があるだけなのです。
ただ、人間の脳はどうも、
客観的な視点で物事を見るのが苦手で、
感情を左右するような出来事があると、
それにより判断や意思決定は
大きく影響を受けることになります。
さらに、人は頭に思い浮かべやすいことが
正しいことだと思ってしまうクセもあります。
これが利用可可能性ヒューリスティックという
脳のクセです。
例えば、外出する上で、
今一番気をつけるべきことは何かと聞かれたら、
多くの人はマスクをすることとか
3密をさけるといったことが
頭に浮かぶと思います。
もちろんCV感染のことも
気をつける必要はありますが、
本来は、それよりも交通事故の方を
より一層気をつけるべきなのです。
なぜならば、CVに感染したり
それで死亡することよりも
交通事故で負傷もしくは死亡することの方が、
多いからです。
実際、9月4日現在までのCV感染者は69,599人、
死亡者数1,319人ですが、
7月末までの交通事故による負傷者数は203,526人、
死者数は1,548人と、
いずれも交通事故による被害の方が大きいのです。
にもかかわらず、
外出時には3密への必要以上の注意を払うのに、
運転する際には、
今まで以上に注意を払うことはしません。
運転中に安易にスマホを見たり、
スピードを出し過ぎたり、
黄色信号でアクセルを踏んだりといったことを
ついやってしまうのです。
さらに、人はリスクを減らす対応をする場合、
そのリスクをゼロにしたいと思ってしまう
脳のクセもあります。
これがゼロリスクバイアスであり、
万が一病の根本にある脳のクセです。
CVに感染することや、
それで死んでしまう可能性を意識しすぎてしまい、
少しでも感染のリスクが考えられる場合、
極力それを避けける行動をしようとするのが、
ゼロリスクバイアスによる判断です。
前回のブログでも書いたように
現在のところ日本人の感染率は0.05%、
死亡率は0.001%です。
この客観的なデータから見る限り、
CVに感染することは「まれ」であり、
CVで亡くなることは「まれ」の「まれ」です。
でも、その「まれ」に
自分が当たってしまったらどうしようかと、
過剰に心配し過ぎるのが
万が一病の人たちなのです。
そう考えてしまう背景には、
「事前確率の無視」や
「フレーミング効果」により錯覚といった
脳のクセも関係しています。
「事前確率の無視」とは、
本来の確率を無視して、
事後に起こったことを見て
直感的に判断してしまう脳のクセです。
例えば、CV感染で死ぬ確率は
0.001%であるという事実があるにもかかわらず、
「これで全国の死者数は1,300人を超えました」
といった報道を耳にすると、
CV感染で死ぬ確率は無視され、
いたずらに死の恐怖を
感じてしまうというのがそれです。
また「フレーミング効果」による錯覚とは、
同じことを異なる表現をすることにより
全く印象が変わるため、
正しい判断が歪められてしまうことを言います。
日本ではCVに感染すると1.9%の人が
亡くなりますと言うのと、
CVに感染しても98%の人は
回復しますと言うのとでは、
受ける印象や不安の度合いが全く異なります。
これが「フレーミング効果」による錯覚です。
このように万が一病の背景には
ネガティブバイアスやゼロリスクバイアス、
感情ヒューリスティックや
利用可能性ヒューリスティック、
事前確率の無視やフレーミングによる錯覚など、
多くの脳のクセが存在しているのです。
万が一病に感染している方々が
そのことに気づき、
一日でも早く回復してくれることを
願ってやみません。