日常的に使う言葉として、
「心を入れ替える」とか
「心が惹かれる」とか言います。

実はこの二つは同じ心でも、
全く異なる働きをしているということは
ご存じでしょうか。

前者は思考、考え方、思い、認知、
価値観、信念という意味あいの「心」であり、
後者は喜怒哀楽の感情や
欲求を意味する「心」です。

もう少しわかりやすい言葉で言うならば
前者は「~すべき」「~してはダメ」などの
考え方が背景にある「心」であり、
後者は「~したい」「~は嫌」などの
感情が背景にある「心」です。

日本語ではどちらも「心」と表現されるため、
混同されがちですが、
この両者は全く異なる存在なのです。

例えば、今まで食事のことなどあまり考えず
「食べたいものを食べたらいい」と
思っていたところ、
最近太ってしまったので、
これからは「間食をするのはやめよう」と
思ったとしましょう。

でも、目の前にケーキがあれば、
やはり「食べたい」と思って食べてしまいます。

このように思考は、
「食べたらいい」を
「食べるのはやめよう」のように
ある程度変更は可能ですが、
「食べたい」のように感情は
自然と沸き上がってきてしまう感覚なので
これを変更することはできません。

悲しいときに嬉しくなることはできませんし、
好きなものを嫌いだと感じることも
できないのです。

ただし、感情は変えられなくても、
思考と感情が一致している限り、
何の問題も起こりません。

目の前にケーキがあり、
「食べたい」と思った場合、
「食べたければ食べればよい」という
思いを持っているのであれば、
思考と感情は一致しているので
何の問題もなくおいしくケーキを
食べることができます。

ところが、
「食べてはいけない」と思っているのに、
目の前にケーキを
「食べたい」と思ってしまう場合などのように、
思考と感情が不一致のときもしばしばあります。

このように思考と感情の間にギャップがあると、
そこにはストレスが生じます。
それが悩みや問題を生むことになります。

そうであれば、
思考を変えて感情と一致させれば
よいと思われるかもしれませんが、
現実はそう簡単ではないのです。

それは、ダイエットをしようと決意しても
やはり食べてしまい、
うまくいかない場合が多いことからも
容易に理解できると思います。

このことは人間関係の問題でも同じです。

よく、考え方を変えれば嫌いだった人も
嫌いではなくなると言われますが、
ある意味それは正しいのですが、
ある意味間違っているとも言えます。

例えば、自分勝手で短気で思いやりのない母親が
小さい頃から嫌いだったとしましょう。

そんな母親に対して
「母親はもっと私に優しくかかわるべきだ」という
思い込みがあります。
これが思考の側面です。

それに反して
母親は自分勝手な振る舞いをするので、
自ずとイライラや怒りの感情が出てきます。

ところがいろいろな人から、
「お母さんも高齢なんだから、
もっといたわってあげなくては」とか、
「母がいなければあなたは
生まれてこなかったんだから、
もっとお母さんを大切にしないと」などと
よく言われます。

もし本人が、確かにそうだなと心底から思い、
そのように考え方に変えることができたならば
母親に対する嫌いだという思いは
なくなるかもしれません。

その意味では考え方が変われば
気持ちも変わるというのは真実です。

しかし、言われていることが
どんなに正論であったとても、
どうしてもそんな思いにはなれないという場合も
ごく普通にあります。

特に過去の嫌な思い出や
許せない出来事などがあれば
それは信念に近い形で心に刻まれているため
その思いを拭い去るのは容易ではありません。

つまり、思いが強ければ強い程、
思考を変えることは現実的には
困難になるのです。

その意味では、
考え方を変えれば気持ちも変わるというのは、
正しくありません。

ほとんど実行不可能な前提にたった話なので、
うまくいくわけがないからです。

つまり、多少の工夫は必要だとしても、
自分の考え方を変えられるのであれば、
それに伴い感情は変わるので、
状況の改善が期待できます。

しかしそう簡単には変わらない信念や思い込みは
考え方そのものを変えることが困難なため
それに伴う感情も変わりませんので、
当然、状況にも何の変化はありません。

それにもかかわらず、
自分を変えたいとか、状況を改善したいと考え、
「やればできる」とか
「できるか否かはあなたのやる気次第」などと
自分に言い聞かせながら、
何とか自分の思いを変えようと努力する人もいます。

しかし、このような人たちは、
できないことをしようとしているため、
結局は、やっぱり自分はダメなんだとか、
自分の努力が足りないからだと思ってしまい、
自分を責めたり落ち込んだりするのが関の山です。

ですから、そのような場合は
無理に考え方を変えようとしてはいけないのです。

変えようと思えば思うほど、
より自責の念や罪悪感に苛まれることになり、
かえって自分を追い詰めてしまうからです。

でも、そうは言いながらも、
ストレス状況が長らく続けば、
何とか今の状況を改善したいと
思うのも当然です。

自分のネガティブな思いを
なかなか変えることはできない場合、
どうしたら今の状況を
改善することができるのでしょうか。

そのことについては次回お話します。