(前回の続き)
当初私は、「心の治癒力」を
症状や病気を治す力だと理解していました。

その後、心の健康的な面にも
目を向けるようになると、
「心の治癒力」の意味も
次第に広がりを見せるようになりました。

どういうことかと言うと、
痛みなどの身体症状がよくなったり、
不安がうつや改善するというのは
あくまでも病気や症状の改善を
中心とした視点です。

しかし、世の中の人は、
病んでいる人ばかりではありません。

健全でごく普通の人が、
職場で大きな問題を抱えてしまったり、
愛する人を亡くしてしまったり、
これから先、どうしていいのか
わからなくなったりするのです。

そんな人たちが、
このような困難や問題、不幸を
乗り越える原動力となるのも
「心の治癒力」だと考えるようになったのです。

ですから、
病気や症状を改善させる力という
狭義の意味だけではなく、
悩みや問題を解決したり、
困難な状況を乗り越えたり、
自分に肯定感が持てるようになったり、
物事を成し遂げたりといった、
広義の意味でも「心の治癒力」という言葉を
使うようになったのです。

この考え方は、
私の視野を大きく広げてくれました。

今までは治療にしか
目が向いていなかったのですが、
それ以降は、どうしたら人は、
夢や希望を叶えられるのか、
自分の可能性を広げられるのか、
自己肯定感や人間力を高められるのか、
生活習慣を変えられるのか、
セルフコントロールができるようになるのか、
といったことにも関心を持つようになったのです。

このような視野の広がりの中で、
私にとって重要性を増してきたのが
環境要因という視点です。

これは単なる自然環境という意味ではなく、
自分の心や行動に影響を及ぼす、
日常でのつながりや関係性のすべてのことです。

例えば、早朝の清々しさや居心地のよい部屋、
一緒にいると落ち着く友人や先輩、
前向きな気分になれる仲間やグループ、
ワクワクするモノや場所、
心が安らぐ音楽や芸術等々です。

人の心や行動に影響を及ぼす程度は
それぞれ異なりますが、
日常におけるほぼすべてのつながりは
多かれ少なかれ私たちの
思考や感情、行動、気分に影響を及ぼします。

しかし、私たちは、
そのような「環境」から
知らず知らずのうちに影響を受けていることに
あまり気づいていません。

でも、ある意味それは当然のことです。
なぜならば、環境からの影響は
多くの場合、無意識レベルに
作用しているからです。

例えば、ある考えがひらめいたとすると、
多くの人は、自分が考え出したと思いがちです。

しかし実際は、今までに経験したことや
人から聞いた話、本の知識などをもとに、
そのアイデアが生み出されています。

中には人から聞いたアイデアだったことを
すっかり忘れてしまい、
それをふと思い出したとき、
あたかも自分の
オリジナルのアイデアであるかのように
思ってしまうこともしばしばです。

要するに、われわれの考えや行動、判断は
日常生活における
様々な環境要因が反映された結果なのです。

しかし以前の私は、
心理療法のテクニックを駆使して、
患者さんを治すとばかりに
意識が向いていました。

その時は、私の気の利いた一言や、
思い込みを緩めるための様々なテクニックで、
患者さんの心や行動に
変化が起こるのだと思っていたのです。

しかし今考えると
そうではなかったことがわかります。

私のテクニックは、
あくまでも変化を起こす「きっかけ」にしか
すぎなかったのです。

つまり、最後の一押しをしただけであり、
その背後には、環境要因によって積み上げられた
多くの知識や経験、つながりがあったからこそ
うまくいったように見えただけだったのです。

逆に言うと、
そのような変化の準備としての
知識や経験の積み重ねがない状態で
私がかかわったとしても、
全く変化は起こらないのです。

事実、私がうまくやれたと思っていても、
患者さんには全く変化がなかったり、
私の言うことが全然入らなかったという人も
少なからずいました。

このような状態の患者さんにするべきことは、
変化のスイッチを押すことではなく、
変化を起こすための準備をすることなのです。

当然、最終的な変化に至るまでには
ある程度の時間はかかります。
また、患者さんの準備状態の
程度によっても異なります。

その準備状態を整えるためには、
どうしても環境要因による体験や気づきが
必要になってくるのです。

心や行動に変化をもたらすためには、
ただ単に、思い込みや行動を変えようとする
アプローチだけでは不十分であり、
日常における様々なつながりという
環境要因をうまく利用しながら、
変化のための準備状態を整えていくことが
必要不可欠になってくるのです。
(続く)