ブログ:「心の治癒力」物語④~目覚め

(前回の続き)
病気や症状の治療において、
患者さんの心に
変化をもたらすアプローチは重要であり、
そのための有用な手段のひとつとして
私は心理療法を大いに利用していました。

もちろん心理療法以外にも、
患者さんの心に変化をもたらす要因は
たくさんあるのですが、
とにかく私は心理療法が好きだったのです。

そこで最初に心理療法について
少しだけ触れさせてもらいます。

心理療法にも流行があります。
昔は精神分析療法や行動療法が
心理療法の中心でしたが、
今は、認知行動療法という
思い込みと行動をセットにして扱う
心理療法が盛んです。

もっとも、認知行動療法もさらに進化し、
今では現実をそのまま認め、
無理に変えようとしないという方向に
変わりつつあります。

これは日本発祥の心理療法の一つである
森田療法とかなり重なる部分が
あるように思います。

なお、一般の人にはカウンセリングの方が
なじみがあるかもしれません。

これはカール・ロジャースの
来談者中心療法がもとになっており、
相手(クライエント)の話を聴くこと、
つまり傾聴や受容、共感に重きが置かれています。

ただ、個人的には、
私はカウンセリングが
あまり好きではありません。

なぜならば、ただ話を聴くだけで、
こちらからあまり積極的に
アプローチしないというのは、
もどかしさや物足りなさを感じるからです。

もちろん、患者さんの話に
じっくり耳を傾けることは大切です。

しかし、私の目的はあくまでも、
患者さんの症状を治すことだったので
当然、そのためのアプローチが必要だったのです。

そんな私が興味を持った心理療法は
ブリーフセラピー(短期療法)でした。

これはやや主流から外れた考え方の
心理療法でしたが、
私の考え方にはとてもフィットしたため、
治療はこれを中心に行い、
少しずつ自分なりのやり方を作っていきました。

実は、ブリーフセラピーの考え方も
森田療法とかなり共通点があります。

ですから、
最新の認知行動療法とブリーフセラピー、
実はかなり重なるところがある気がします。

それはそうと当初の私は、
心理療法のテクニックに魅せられ
いかに相手のものの見方や考え方、
行動を変えることで、
症状や病気を治すかということに夢中でした。

つまり、心理テクニックを用いて
患者さんの「心の治癒力」をうまく引き出すことで
身体症状の治すことに
最大の喜びとやりがいを感じていました。

そんなとき、ランバートらの書いた
ある衝撃的な論文の存在を知りました。

それによると、
心理療法でクライエントの問題が解決するのは、
技法やテクニックの要因は
高々15%だと言うのです。

さらに驚いたとことに、
最も大きな要因は「治療外要因」であり、
それが全体の40%を占めているというのです。

「治療外要因」とは、治療とは全く関係ない要因、
つまり性格や友人関係、社会的つながり、
知識、お金、偶然の出来事といった、
クライエントの特性やつながり、環境、
きっかけとなる出来事などのことです。

それ以外の治療に関連する要因としては
信頼関係要因が30%、
クライエントの期待感が15%でした。

私は、心理療法のテクニックが15%程度しか
治療に寄与していないという事実を知り
大きな衝撃を受けました。
(その後の研究では、技術やテクニックの要因は
全体の1%程度だという報告も出されています)

もっとも、心の悩みを解決するのと
ストレスによる身体症状を治すのとでは
似て非なるところがあります。

それならばと思い、その後1年かけて
自分が治療した患者さんを対象に、
「何が症状を改善させたと思うか」という
アンケート調査を行い、
ランバートらの言っていることを
自分なりに検証してみました。

その結果、
最も症状の改善に関与した要因は
「主治医に対する安心感や信頼感」で
25%であり、
次が「具体的な話や説明」の20%でした。

また、テクニックによる要因を
反映していると考えられた
「ちょっとした言葉」は14%でした。

なお、この調査では、
治療外要因による改善は10%程度でした。

その後、後輩の心療内科医にも協力してもらい
同じアンケートを実施し、論文にまとめました。
(心身医学 第43巻第6号p359‐366 2003年)

私と後輩医師の違いは、
薬によりよくなったと認識している患者の割合が、
後輩医師の方が明らかに多かったことくらいで、
他の要因である医者患者関係や
技術やテクニックに関しては
大きな違いはないという結果でした。

正直言って、この結果にもショックを受けました。
後輩医師よりも明らかに自分の方が
心理療法の技術やテクニックは
上だと思っていたからです。

しかしアンケート結果を見る限り、
その点に関しては後輩医師とは
ほとんど差がなかったのです。

その事実の愕然としましたが、
でもその一方で、
症状の改善には、技術やテクニックよりも、
つながりや信頼関係の方が、
圧倒的に大きな影響を及ぼしているという事実に
この時初めて気づかされたのでした。

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