人は誰でも、自分の意志で
物事を決めていると感じているため、
誰もが自由意志があると思っていますが、
いろいろな研究を見てみると、
どうもそんな単純な話ではないことがわかります。

古典的な研究では、
手を動かそうと思う0.35秒前にすでに
脳が手を動かすための電気信号を
送り始めているため、
私たちが自由意志だと思っているものは、
実は脳の電気反応の結果だというのです。

つまり、手を動かそうと思う前から、
すでに手を動かすことは 決まっており、
脳はその準備をしているということです。

このことについては
脳研究者の池谷裕二先生の著書、
「脳には妙なクセがある」(扶桑社)や
「単純な脳、複雑な「私」」(講談社)に、
興味深い話がたくさん載っていますので、
興味のある方はぜひお読みください。

さらに池谷先生は、
「意志は脳から生まれるのではなく、
周囲の環境と身体の状況で決まる」
と言っています。

例えば、指でモノを指して欲しいと依頼すると、
右利きの人ならば右指で指します。
でもこれは意志でなく、クセと言えます。

ところが、
「左右どちらかで指してください」と依頼すると、
右指の使用率は60%に下がります。
この変化は「意志」でしょうか?

池谷先生は、これは「意志」ではなく
「反射」だと言うのです。
これは、問われたことへの自動的な反応だと
解釈できるからです。

さらに右脳の頭蓋外部から磁気刺激をすると、
右を選ぶ率が60%から20%に低下し、
左手を多く使うようになります。

ところが、当の本人は
刺激されたことことには気づかず、
あくまでも「自分に意志によって左手を選んだ」と
頑なに信じているのです。
実際には、磁気刺激の影響を
受けているにもかかわらず、です。

また、次のような実験も紹介されています。
頭皮に鎮痛剤で麻酔をかけ、
頭蓋骨に10㎝ほどの穴をかけ、
むき出しの脳表に電極を刺すと、
様々な感覚や筋肉の動きが生じます。
それを本人に実況中継してもらうのです。

例えば、頭頂葉にある場所を刺激すると、
手や唇など、身体の特定のパーツを
「動かしたく」なります。
つまり、動かかしたいという「意志」が
電気刺激でうまれるのです。
ただし、実際には動かしてはおらず、
動かしたいという欲求のみが生じます。

さらに、強く刺激すると
あたかも身体が「動いた」ように感じるのです。
動いていないことを本人に伝えても、
その事実を信じようとはしません。
それくらい、活き活きとした「動き」を感じます。

一方、前頭葉のある場所を刺激すると、
刺激場所に応じて、
身体のパーツが実際に動きます。

ところが、実際に動いているにもかかわらず、
本人は「動いた」という自覚がありません。
自分の行動を事実として自覚できないのです。

このことから、
「動きたい」や「動いた」という感覚と、
「動く」という行動は、
別の現象であることがわかります。
つまり、知覚と運動は
独立した脳の機能なのです。

さらに面白いことに、
脳から手に「指令」が行って
実際に「動く」のと「動いた」と感じるのとでは
どちらが先かと言うと、
当然、「動く」が先で、
「動いた」と感じるのが後だと考えます。
ところが実際は、その逆なのです。

つまり筋肉が動くよりも前に、
「動いた」という感覚が生じ、
そのあとに、実際に「動く」という行動が
生じるのです。

ただ、それだと不都合が生じるため、
脳は不自然にならないように、
あたかも「動く」という行動をしたあとに、
「動いた」と知覚しているように
上手に補正しているのです。

要するに、私たちが
行動のあとに動いたと感じるというのは
錯覚なのです。

面白い話は他にもあります。
右側の側頭葉の「各回」という部分を刺激すると
被検者の意識は2メートルほど舞い上がり、
天井付近から「ベッドに寝ている自分」が
部分的に見えるというのです。
これは、まさに幽体離脱と言われる状況です。

こうして見てみると、
当たり前だと思っていたことが、
実は錯覚であることがたくさんあるのです。

私たちは脳にうまく騙されているのです。
本当にわからないものです。