ブログ:緩和医療における切実な問題

平成18年に政府ががん対策基本法を制定、
その後、緩和ケアの理解や普及により、
多くの人が緩和ケアの存在を知るようになり、
今では全国で400以上の病院が
緩和ケア病棟を持つに至っています。

それにより末期がんの患者さんに対する
苦痛の緩和や手厚い看護が
かなりできるようになってきました。

しかしその一方で、
医療財政がひっ迫する中、
政府はできるだけ入院患者数を減らし、
在宅診療を推進するようになってきました。

その対策のひとつとして
入院期間により診療報酬が変わる仕組みが
導入されました。

このシステムでは、
長い間、患者さんを入院させていると、
どんどん収益が下がる仕組みになっており、
そのためどこの病院でも、
患者さんに早めの退院を
促すようになっています。

これは緩和ケア病棟の患者さんにおいても
例外ではありません。

以前の緩和ケア病棟では
入院期間の長短にかかわりなく、
一定の診療報酬がありましたが、
最近は、入院期間が1ヶ月以内か、
2ヶ月以内か、2ヶ月以上かにより
診療報酬が変わる仕組みになりました。

もう少し具体的に言うと
一人の患者の1日の入院料は、
1ヶ月以内の場合と比べ、
2ヶ月以内では約5,000円、
2ヶ月以上だと約15,000円安くなるため、
入院期間が長くなれば、
その分、病院の収入が減ることになります。

病院を経営する側からすれば、
できるだけ収入を増やす必要があることは
言うまでもありません。

そうなると当然のことながら、
緩和ケアでも
できるだけ新規の患者さんを入院させ、
1~2ヶ月以上いる患者さんは、
他の病院に転院してもらうなどの対応を
促すようになってきました。

つまり、今は患者さんの思いというよりも
病院の都合により
患者さんの入退院が左右されるという状況に
なっているのです。

これは、資本主義社会の中で
病院経営をしていくためには
やむを得ないことだということは
十分に理解しています。

それはそれで仕方ないのですが、
その一方で、知らず知らずのうちに
患者さんに対するかかわりが
打算的になっていくことを私は危惧しています。

もちろん、病棟スタッフも
患者さんの思いに寄り添いながら、
一生懸命にかかわっていると思います。

しかし、システムや制度という
目に見えない「枠」にはめられると、
人はどうしても
その「枠」の中で物事を考えざるを
得なくなってしまうものです。

それは緩和ケアの質の問題にも関係してきます。
なぜならば、入院患者数が多ければなるほど、
スタッフの心の余裕はなくなりますし、
入院期間が長くなっている患者さんがいれば、
いかに早く退院させるかということに
思いが傾いてしまうからです。

これは、最近言われている
「緩和ケアの医療化」の問題とも
無関係ではありません。

「緩和ケアの医療化」とは、
緩和ケアの患者さんに対するかかわりが、
一般の病棟とさほど
変わらなくなってきているという問題です。

以前の緩和ケア病棟では、
患者さんに対してスタッフが、
じっくりと時間を取って話を聴いたり、
できるだけ患者さんが穏やかに過ごせるように
いろいろな工夫や取り組みを積極的に考え、
みんなでそれを実行していました。

しかし現在は、
どの病院でもナースの数は足りず、
当然、緩和ケアのスタッフも少なくなり、
さらに本人の希望とは関係なく、
緩和ケアに配属されるスタッフも多くいます。

そうなると、
緩和ケア病棟も一般病と同様に忙しく、
以前のように余裕を持った対応が
だんだんと難しくなってきます。

こうした診療報酬というシステムの問題や
ナース不足や時間的余裕の問題などにより
「緩和ケアの医療化」が進んできたと
考えられています。

これは由々しき問題ではありますが、
そうかと言って、時代の流れもあり、
すぐさま改善できる問題でもありません。

私たちは、そのような限られた状況の中で、
可能な限り緩和ケアの質を維持し、
できるだけ患者さんの思いに寄り添った
かかわりができるように努力工夫を
していく必要があります。

なかなか世知辛い世の中になってきました。
そんな中でも、やれることをやっていく、
そんな思いでこれからも
取り組んでいきたいと思います。

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