私は心療内科医になったのが平成2年ですが、
その後間もない頃に心理療法のひとつである
ブリーフセラピーの存在を知り、
以来、ブリーフセラピーにはまっています。

ブリーフセラピーを私なりの視点で
ひと言で言うならば、
人の思考のクセをうまく利用して
悩みや問題を解決するための心理療法です。

ブリーフセラピーとのかかわりは
かれこれ30年近くになりますが、
何が問題を解決するのかということについては、
経験の積み重ねや環境の変化に伴い、
考え方がずいぶんと変わってきました。

心療内科医時代は、
まさにブリーフセラピーで
患者さんの「治療」をしていました。

私が主に診ていたのは、
慢性疼痛や自律神経失調症、不定愁訴症候群、
過食症、拒食症といった
身体症状や行動異常を持った患者さんでしたが、
もちろん、うつや不安障害の患者さんといった
精神症状を持った患者さんも診ていました。

何をしていたかと言うと、
ブリーフセラピーや他の様々な心理療法の
心理テクニックを駆使して、
患者さんの「思い込み」や「行動」に
変化をもたらすことで、
症状の改善や行動修正を行っていました。

その意味ではまさに「治療」でした。
若い頃は、こうしたテクニックで
いかに患者さんの症状を
治すことができるかということが
最大の関心事でした。

もちろんよくならなかった患者さんもいましたが
よくなる患者さんもそれなりにいたので、
自分としては、比較的うまく
やっていた方だと思います。

その後、心療内科医から緩和ケア医になり、
ブリーフセラピーを使う機会が
ほとんどなくなってしまいました。

そうなって初めて気づきました、
やはり私はブリーフセラピーが大好きなのだと。

そうであれば、何かしらの形で
ブリーフセラピーを続けたいと思い、
平成14年12月から
ホリスティックコミュニケーションと称し、
ブリーフセラピーをセラピストや一般の人に
教えることを始めました。

ここでは病気や症状の治療としてではなく、
あくまでも悩みや問題解決のための手段として
ブリーフセラピーを教えていました。

これは今も続いていますが、
ただし、問題解決に対する視点は、
ここ数年で大きく変わってきました。

以前は、テクニックを上手に使うことで
問題解決をするという視点で
ブリーフセラピーを教えていました。

つまり、セラピストのかかわり方で、
クライエントの考え方や行動が変わり、
その結果、問題が解決するという視点で、
話をしていました。

しかし最近はそうではありません。
セラピストのアプローチの仕方で
問題が解決するのではなく、
クライエントが日常に戻ったとき、
周囲の人や環境から受ける「きっかけ」により
人は変わると考えるようになったのです。

要するに、セラピストは、
相手の思い込みや行動を
直接的に変えるような
かかわりをしているのではなく、
相手の無意識という畑に、
変化のきっかけとなるかもしれない「種」を蒔く
という作業をしているだけだと
考えるようになったのです。

無意識の畑にたくさん種を蒔いておけば、
あとは日常生活に戻ったとき、
何かしらの「きっかけ」で
その種のいくつかが芽を出し、
次第に大きく成長していきます。

芽が出てきたら、
ときにはセラピストとのかかわりと通して
「水やり」をすることで
より成長を促すこともできます。

これが原動力となって
「思い」や「行動」に変化が現れ、
知らず知らずのうちに、
問題解決に向かって
動き出してしまうというわけです。

ですから、クライエントにしたら
ブリーフセラピーを受けたから
問題が解決したという感じではなく、
何か知らないけど、
あれこれやっているうちに
問題が解決してしまったというイメージです。

私は心療内科時代から
「心の治癒力」をうまく引きだすことで
問題を解決すると言い続けてきました。

しかしこれも今はちょっと違ってきています。
「種まき」や「水やり」をしておけば、
あとは、日常生活における体験や出来事が
「心の治癒力」を育て、
それが、問題解決につながると
考えるようになりました。

そんなわけで、
私の問題解決に対する考え方も、
「治す」「解決を引きだす」から、
「種まき」や「水やり」をするというように
変わってきています。

そして何が問題を解決するのかについても、
ブリーフセラピーが解決するのではなく、
その人の日常における「きっかけ」だと
今は思っています。

ブリーフセラピーはあくまでも、
「心の治癒力」がうまく育つための準備や地ならし
種まきや水やりといった作業を
しているに過ぎないのです。

次回は、もう少し具体的な例で
このことを説明をしたいと思います。