前回は、
何が問題を解決するのかということについて、
私の考え方の移り変わりについて話をしました。
今回は、問題解決に対する今の考えについて
具体例を通して説明したいと思います。

以前、こんな悩みを持った母親がいました。
彼女には、二人の小学生の男の子がいたのですが、
お兄ちゃんが弟に対して
すぐに暴力を振るっていじめるというのです。
いくら注意しても、一向にやめる気配はなく、
それどころか、最近はより
エスカレートしていました。

こんな悩みを抱えた母親に対して
ブリーフセラピーを使って対応する場合、
お兄ちゃんが弟をいじめる
「原因」には一切触れず、
母親がお兄ちゃんに対して、
どんなことをしたときに、
お兄ちゃんの弟に対する態度が
和らいだのかをたずねます。

「お母さんがお兄ちゃんに対して
どんなことをしたときには、
弟さんに対する態度がやさしくなりましたか」

こんな質問をすると、
お兄ちゃんは料理に興味があり、
母親と一緒に料理を作ったときは、
すごく機嫌がよく、
弟に対しても優しく接しているという
答えが返ってきました。

このような質問をすることで
「うまくいっていること」の情報を引きだし、
これを問題解決のヒントにするというのが
ブリーフセラピーの常套手段です。

以前の私であれば
「母親と一緒に料理を作る」ことが、
問題解決の糸口になると考え、
暗に一緒に料理を作ることを勧めていました。

しかし今はちょっと違います。
確かに、それも問題解決のための
重要なヒントではありますが、
何もそれだけにこだわる必要はありません。

質問に答えてもらうことで、
「一緒に料理を作る」
という答えを引きだすのは、
問題解決の答えを得るためではなく、
「種まき」作業に過ぎません。

実際にこれが芽を出すかは、
実は、日常生活において
適切な「きっかけ」があるか否かによります。

「一緒に料理をする」ことは
お兄ちゃんが弟に対して優しくなるための
大切な行動なのですが、
日常に戻ると、母親は
忙しさに紛れてそんなことは
忘れてしまっているのが普通です。

でも無意識には、
その情報はしっかりと保存されているので、
何かの「きっかけ」があれば利用されます。

例えば、テレビを見ているときに
料理をする場面がでてきたら、
「美味しそうだね」といった会話で
お兄ちゃんと盛り上がるかもしれません。

また、歌番組を見ながら、
お母さんが歌を口ずさんでいるのを聞いて、
お兄ちゃんも歌い始め、
それが「きっかけ」となり、
みんなで「一緒」にカラオケに行こう
という話になるかもしれません。

無意識は、
「一緒に料理を作る」という有用な情報をもとに
今まで蓄えられてきた知識や経験と照らし合わせ
「料理の話をする」とか、
「一緒に歌う」「みんなでカラオケに行く」
ということも
問題解決に役立つかもしれないと判断し、
そのような行動を母親に取らせるのです。

一方、お兄ちゃんは
みんなと一緒にカラオケに行って
歌ったという経験がことのほか楽しく、
そんな機会が増えるにつれ、
弟をあまりいじめなくなるように
なりました。

カウンセリングでは、
料理関連の情報は出てきましたが、
歌やカラオケの話は全くありませんでした。

でも、実際には、
みんなで一緒にカラオケに行くことが
お兄ちゃんの問題を改善させることに
つながったのです。

もちろんお母さん自身も、
そんなことで問題が解決するなんて
それまでは考えたこともありませんでした。

これはどういうことかと言うと、
カウンセリングの場面で蒔かれた
「一緒に料理を作る」という「種」が、
歌番組を「きっかけ」に芽を出し、
「一緒に歌を歌う」「みんなでカラオケに行く」
という行動につながり、
それがお兄ちゃんの問題行動を
なくすという結果に結びついたのです。

日常における「きっかけ」が、
その人の無意識に働きかけ、
それが問題解決につながるというのは
こういうことです。

何がどうつながるのかは、
その人が無意識の中に蓄えている情報や
日常生活における「きっかけ」によります。

そういう意味でセラピストは、
「種まき」はしますが
問題解決はできないのです。

実際にできることは、
できるだけ芽が出る可能性の高そうな「種」を
たくさん蒔くくらいのことです。
でも、それでいいのです。

ブリーフセラピーによって
問題が解決するといいうのは
こんなことだと、今は考えています。