ブログ:私の平成30年史②

(前回より続く)
九大心療内科での1年間の研修を終え、
平成4年4月から京都にある
洛和会音羽病院に赴任、
ここで約10年心療内科医として
臨床経験を積ませてもらいました。

この10年は私にとって
最も実りの多い時期だったと思います。
一人ひとりの患者さんに
じっくり取り組みたいという思いから、
外来は完全予約制とし、
初診は1時間かけて診させていただきました。

平成5年頃からブリーフセラピーにはまり、
以後、現在に至るまで
心理療法やコミュニケーションの根底には
このブリーフセラピーの考え方があります。

もともと心と身体のつながり(全体性)と
自己治癒力に関心があり、
どうしたら最大限に自己治癒力を引きだし、
症状や病気の治療ができるかということを
常々考えていました。

そんな時に出会ったのが、
当時ブームになっていた
ブリーフセラピーでした。

私も当初はNLPや解決志向アプローチといった
ブリーフセラピーを学びましたが、
そこにはあまりこだわらず、
面白そうなものや使えそうなものは
何でも取り入れ、治療に使っていました。

たくさんの治療体験を通して、
心が持っている力が
自然治癒力に影響を及ぼし、
その結果として症状や病気が改善するという
考え方をするようになりました。

つまり心には症状や病気を治す力があり、
それを「心の治癒力」と呼ぶようになり、
以来、これを探究し、
患者さんから「心の治癒力」を
うまく引きだすことで治療をすることが
私の最大の関心事となり、
またこれが人生のテーマにもなりました。

この頃は治療が楽しくて仕方なく、
さらには、楽しむことが治療だとさえ
思うようになっていました。

そんなある日、音羽病院の理事長から
本を書いてみないかと言われ、
これは自分の考えや
やっていることをまとめるチャンスだと思い、
すぐさま快諾しました。

そして平成10年4月にダイヤモンド社から
最初の著書である
『人は自分を「癒す力」を持っている』を
出版しました。
私が38歳の時です。

この頃が最も勢いがあり、
心療内科医として一番脂の乗っていた
時期だったと思います。
そんな絶頂期だった私が、
その後スランプに陥ることになります。
その原因は本を書いたことでした。

自分のやっていたことを言語化することで、
治療に対する自分の考え方のパターンが
整理され、明確になったのはよかったのですが、
逆にそれが思考の硬直化を
生んでしまったのです。

それまでは、患者さんの話を聴きながら、
何をどうするか、
自分の引き出しの中にある様々な道具に
思いを巡らせながら、柔軟に対応していました。

しかしパターンが見えてしまったことにより、
患者さんの話を聴くと、
すぐさまそのパターンが
頭の中に浮かんでしまい、
知らず知らずのうちに、
そのパターンに患者さんを当てはめて
治療を進めるようになってしまったのです。

つまり、一人ひとりの症状や状況に合わせた
柔軟性で事細かな視点での治療が
できなくなってしまったのです。

そこに気づいたのは本を出版して
1年以上も経ってからのことです。
その頃は、なぜか患者さんが
あまり治らなくなったという印象があり、
治療が下手になったと
自覚するようになっていました。

なぜなんだろうと、
あれこれ考えているときに
ふと、自分の思考回路がパターン化されて
しまっていたことに気づいたのです。

それからは、患者さんの治療をする際、
最初に浮かんできた発想は
「捨てる」と決めました。

つまり、パターン化された治療はやらず、
それ以外の方法を敢えて考え出し、
それで治療に取り組むようにしました。

すると以前のような“勘”が戻り、
再び、本来の治療ができるようになりました。

人は知らず知らずのうちに
パターン化した考えに陥ってしまうことを
自らの体験から学ぶことができました。
この経験で私は、また一皮むけ、
さらなる成長ができたのでした。

そうは言いながらも実は、
心療内科医としての最後の数年は、
ややマンネリを感じ始め、
新たな刺激を求めて、
模索し始めていた時期でもありました。

その頃、私の中に漠然とあったのが
がん患者さんへの
ホリスティックなアプローチです。

実は、心療内科医になったのは、
がんの自然治癒にとても関心があったことも
大きな理由の一つでした。

つまり、「心の治癒力」をうまく引きだすことで、
がんの自然治癒を促すことができるのではと
考えていたのです。

そんな折り、
関西医大心療内科の中井教授から、
彦根市立病院の緩和ケアに
行ってもらえないかという話が
突然舞い込んできたのでした。

心機一転したいという思いを持っていた私は、
間髪を入れずその話を受け入れ、
緩和ケア医になることにしました。
(続く)

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