(前回の続き)
自然治癒力ではなく自己治癒力の方が
治癒力の本質を
言い表していると思うようになると、
また新たな思いが沸き上がってきました。

そうであれば、身体だけではなく
心にも治癒力が備わっていると言っても
よいのではないかという思いでした。

心療内科に来る患者さんは、
様々な日常における悩みや問題に直面することで
不安やうつ、イライラをはじめとする
様々な心理的不調を訴えますが、
それが持続することで身体症状が現れます。

私の場合、そのような患者さんと向き合い、
主にコミュニケーションや心理療法で
患者さんの治療をしていました。

私はもともと薬が好きではなかったので、
患者さんが希望する以外は
ほとんど薬を使うことはありませんでした。

つまり、患者さんとのやりとりを通して、
安心感や信頼感、期待感、
希望、可能性といった思いを
持ってもらえるようなかかわりが
私の治療の中心でした。

それにより、うまく治療が進めば、
患者さんの心は楽になり、
不安やうつの症状も改善します。

このとき、心の症状は何によって
よくなったのでしょうか。

確かに、かかわりやコミュニケーションによって
よくなったとも言えるかもしれませんが、
しかしそれは、
あくまでも「きっかけ」に過ぎません。

症状を改善させた根本の力は、
明らかに自分自身の心です。

つまり、いつまでも心配していても
仕方ないと開き直れたり、
ちょっとだけ動いてみようと思い、
実際に動いたら、
段々と気分がよくなることが
分かったというように、
患者さん自身の心の状態が変わったからこそ、
不安やうつの症状が改善したのです。

このように、人の心には
前向きになったり、
困難を乗り越えようと思える力が
備わっているのです。

身体が痛みなどの身体症状を
改善する力があるように、
心にも不安やうつといった
心の症状を改善する力があるのです。

この心が持っている根本的な力のことを
私は「心の治癒力」と呼ぶようになりました。

もちろん「心の治癒力」は、
心の症状の改善だけにとどまりません。

前回のブログでも書いたように、
自己治癒力(自然治癒力ではありません!)の
視点からすると、
「心の治癒力」による心の状態の変化が、
身体の治癒力の本来の力を回復させ、
それが身体症状の改善をもたらすことにも
つながるからです。

これが意味するところは重要です。
なぜならば、状況によっては
「心の治癒力」の存在が、
自然治癒力(身体の治癒力)の上位概念として
位置づけられるからです。

通常、ちょっとした風邪やけがは、
心の状態とはほぼ無関係に自然治癒します。
この場合は、自然治癒力だけで十分です。

ここで問題となるのは、
なかなかよくならない身体症状です。

もちろんその原因が、
がんのような純粋な身体疾患であれば、
西洋医学による身体的治療が必要です。

しかし、ストレスや心理的要因が
原因と思われる身体症状の場合は、
患者さんが安心感や期待感、希望といった思いが
持てるようになる必要があります。

それはひとえに、
患者さんが、「心の治癒力」を
どれくらい発揮できるかにかかっていると言っても
過言ではありません。

うまく「心の治癒力」が発揮されれば、
心の状態は改善し、それに伴い
多くの場合は身体症状も改善されます。

もちろん、すべての原因を
心の状態に求めるつもりはありませんが、
ここでは話を分かりやすくするために、
割り切った言い方をさせてもらいます。

こう考えると、
ストレスが主な原因となっている身体症状の場合、
自然治癒力だけでは如何ともしがたく、
「心の治癒力」がうまく発揮されて初めて、
自然治癒力も十分な力を発揮できるため
身体症状も改善へと向かうわけです。

その意味では、
「心の治癒力」は自然治癒力よりも
上位にある治癒力だと
言ってもよいのではないでしょうか。

しかし、一般的には
「病は気から」とか「心の持ち方が大切」
といった言葉からもわかるように
「心の治癒力」の重要性は認識されながらも、
軽く流されている感が否めません。

あたかも、
心の問題は、自分自身の問題なんだから、
結局は自分で頑張るしかないでしょう、
と言われているかのようです。

確かに、ものの見方や考え方を変えるのは、
結局は自分自身なのですが、
だからと言って、
それができないのは患者さんのせいだと、
一方的に責任を押し付けるのも
どうかと思ってしまいます。

ではどうしたらいいのか。
そんなことをずっと模索していたのが
心療内科時代の自分だったと思います。
(続く)