先日、産経新聞に「この1剤が日本を滅ぼす」
という記事が載っていまいした。
これは高額な抗がん剤
オプジーボに関するものです。

今の日本では、がんになれば
手術や抗がん剤治療を受けるというのは、
ごく当たり前のことです。

一般的に、抗がん剤で
がんを治すことはできませんが、
ある程度延命させることは可能です。
ただし、延命効果がどれくらいあるかは
実際に治療してみないと
わからない部分もあります。

ただ、抗がん剤には
強い副作用もつきものなので、延命とは言うものの
苦しむ時間が
長くなっただけという場合もありますし、
また、副作用により亡くなることもあるため、
無治療のときよりも
かえって命を短くしてしまうケースもあります。

延命することで、
とても良い時間が過ごせるのであれば、
それにこしたことはありませんが、
実際には、必ずしも
そうなるとは限らないというのが現実です。

このようなメリットもデメリットも
持ち合わせた抗がん剤ですが、
再発したがん患者さんに対しては、
当然のごとく抗がん剤が勧められます。

また、見つかったときには
すでに末期という患者さんも少なくありません。
この場合も、
少しでも延命させたいという医者の思いから、
抗がん剤治療が
勧められることも少なくありません。

ただ、患者の立場からすると、
本当は受けたくなくても医者から勧められたら、
とりあえずやるだけは
やってみようかなという気になるのが普通であり、
そうなると当然のごとく
抗がん剤治療が始まることになります。

ところで、抗がん剤治療を受けるにも
当然お金がかかります。
ただ、日本の場合は国民皆保険制度があるため、
患者さんの医療費は1~3割負担ですみます。

さらに高額療養費制度もあり、
どんなに高額な医療費がかかっても
月々の支払の上限が決まっているため、
それ以上の支払をする必要はなくなります。
(上限額は年齢や年収によって異なり、
一般的には月4~8万程度です)

では、患者負担分以外の費用は誰が払うのか?
一部は民間の保険会社が
支払をすることになりますが、
8割以上は国のお金で支払われることになります。
つまり国民の税金が使われるわけです。

その一方で、新しく出てくる
抗がん剤の価格は急騰しています。
たとえば従来の抗がん剤の場合、
そのほとんどが月額10万円以下でしたが、
分子標的薬「イレッサ」が出てきた
平成14年以降は数十万円になり、
最近では70~80万という
抗がん剤も出てきています。

さらに昨年適応が拡大された
新しいタイプの抗がん剤である
オプジーボ(一般名ニボルマブ)に至っては
1回約100万かかり、
それを2週毎に点滴するため、1年続けると
それだけで2,600万円になります。

適応となる、
治癒が難しい非小細胞肺がんの患者さんは
全国に5万人いると見積もられているので、
この人たちにこの抗がん剤を1年間使用すると
1兆3千億円になります。
日本の薬剤費は約10兆円ですから、
この1剤だけで
今の医療費の13%を占めることになります。

もちろん高額な抗がん剤は
オプジーボだけではありません。
一部の小細胞肺がんの患者さんに使われる
クリゾチニブ(商品名ザーコリ)という
抗がん剤はカプセルですが、
1個が約12,000円、
これを1日2回飲む必要があるので、
1ヶ月続けると約72万円になります。

このような高額な抗がん剤が、
今後もどんどん出てくることになります。
同様な対応を続けるならば、当然医療費は高騰し、
いずれは医療保険制度が崩壊することになります。
これが、冒頭で書いた
「この1剤が国を滅ぼす」の意味です。

そんなこともあり、最近では、
費用対効果ということが
言われるようになりました。
これは薬の値段に対する
治療効果の度合いのことです。
月々100万円かけて
3ヶ月の延命しかえられないような薬であれば、
あまりにも費用対効果が悪いので、
そのような薬は薬価を
下げようではないかというわけです。

また、あまりに高額な抗がん剤に関しては、
患者さんにも一部お金を
負担してもらおうという意見もあります。
しかしこの意見には必ず、
「貧乏人は死ねというのか!」という
反論がつきまといます。

さて、この問題を考える場合、
忘れてはいけないのが製薬会社の存在です。
抗がん剤は製薬会社が開発しますが、
それには膨大な開発費がかかるため、
それを回収するためには
ある程度の利益を上げなくては、
企業として成り立たちません。
だからこそ抗がん剤の薬価も
高額にならざるをえないのです。

しかしその一方で、
製薬会社はほんとうに患者さんのことを
考えているのだろうかという思いもあります。
というのは、病院に出入りしている
MR(医療情報担当者)が、
抗がん剤をできるだけ患者さんに使うよう
それとはなしに
医者に取り入るのは一般的ですし、
データの改ざんは論外としても、
統計のトリックを駆使して
データの見栄えをよくし、
都合のよい情報だけを
積極的に提供するという姿を見るにつけ、
これって、患者さんのためを思ってというよりも
やはり企業の利潤を少しでもあげることに
一生懸命になっているのではないかと
私には見えてしまうのです。

また、医者ができるだけ
抗がん剤を使おうと思ってしまうのも、
製薬会社の企業戦略として、
医者にその気にさせるための
様々な心理作戦を駆使しているという
側面があることも否めません。

企業として生き残っていくためには、
できるだけ薬という商品をたくさん売り、
利潤をあげることが
必要不可欠であることはわかっているのですが、
もう少し良心的な売り込みの仕方はないものかと
つい思ってしまうのです。

パソコンや化粧品といった一般の商品とは異なり、
売れば売るほどよいというものではありません。
抗がん剤を初めてとする薬の場合、
患者さんの命に関わることであり、
なおかつその売り上げ収入の多くを
国民の税金から得ていることを考え合わせると、
たんなる利益の追求だけを考えるのではなく、
医者の不適切な使用や過剰使用に
ブレーキをかけたり警鐘を鳴らしたりすることも
製薬会社の役割ではないかと思うのです。

今は高額療養制度もあるため、
お金のことなどをあまり考えずに
高額の抗がん剤も使えますが、
医療制度が崩壊すれば、
患者さん個人の負担が増えるため、
当然、抗がん剤の使用量も大幅に減ります。
そうなれば製薬会社も
存亡の危機に立たされることになります。

その点も十分に考えて頂いた上で、
製薬会社には良心的な企業経営をして頂くことを
切に願ってやみません。