ブログ:ポジティブ心理学にひと言

私はもともと心理のことに関心がありましたが
心理療法を本格的に勉強し始めたのは、
心療内科医になってからです。

最初は教えられるままに
精神分析の勉強から始めました。
一般に心理療法は、
病理に焦点を当て、
問題の根本原因を探ろうとします。

当然、最初の頃は
病理や問題の原因を突き止めることに
興味を持っていましたし、
実際、患者さんの治療をする際も、
そのような視点から関わっていました。

しかし、病理に目を向け、
それに対処するというアプローチの限界にも
早くから気づいており、
もっと実際的で効果のある心理療法はないものかと
たくさんの本を読みながら探していました。

そうこうしているうちに、
病理ではなく心の健全さに焦点を当て、
それをうまく引きだしたり広げたりし、
その力を活用するという視点に立った心理学に
興味を持ち始めました。

例えば人間性心理学やアドラー心理学、
トランスパーソナル心理学、
さらにはNLPや解決志向アプローチといった
ブリーフセラピーなどです。
日本発祥の心理学として有名な森田療法も
この範疇に入ると思いますし、
実際、私は森田療法の考え方を
かなり治療に取り入れていました。

色々と試行錯誤を続ける中、
私にはブリーフセラピーが一番合っていると感じ、
以来、ブリーフセラピーを中心に
患者さんの治療をしてきました。

もっとも、様々な治療法や考えた方を
自分なりに取り入れながらやってきたので、
かなりオリジナルなものになってはいます。
中でも、特に大切にしているのが
「心の治癒力」です。

私は、誰もが自分を癒す力や
問題を解決する力、困難から立ち直る力を
持っていると思っており、
それを「心の治癒力」を呼ぶようにしました。

この「心の治癒力」をいかにうまく引きだすか、
それが私にとってのテーマです。

最近流行りのマインドフルネスも
「心の治癒力」を高めるための
ひとつの手段になります。

また1998年にセリグマンによって提唱され、
今や心理学の大きな流れのひとつになっている
ポジティブ心理学も
まさに「心の治癒力」を扱った心理学であり、
私が昔から考えてきたことに
学問的裏付けをしてもらっているようで
とても勇気づけられています。

ただし、私は学問としてのポジティブ心理学には
とても興味を覚えますが、
実際の心理療法としてのポジティブ心理学には
違和感があるところが多々あります。

ポジティブ心理学とは、従来的な心理学のように
病的側面に焦点を当てるのではなく、
人生に真の充実をもたらす幸福や強みといった
ポジティブな要素について
研究しようという心理学です。

その点は「心の治癒力」と
重なる部分があるのですが、
実際にどのように関わるのかという部分になると、
多少のズレがあるような気がします。

例えば、ネガティブにものごとを考え、
何事にも不安を感じてしまうような患者さんに、
ポジティブな思いや前向きな考え方が、
いかに問題を解決し、
幸せへと導いてくれるかということを
熱心に伝えたとしても、
その患者さんの心には全く響きません。

なぜならば、そんなわかりきったことを言われても
それですぐさま思いや考え方が
変わるわけではないからです。
逆に、そんなことを言われたら、
かえって反発を感じ、
信頼関係を失う可能性の方が
高いのではないでしょうか。

大切なのは、
ポジティブな側面に
患者さんの目を向けさせようとすることではなく、
知らず知らずのうちに、
患者さんの目がポジティブな側面に
向いてしまうような、
そんなかかわりをすることだと思っています。

そのためには、
ネガティブな思いを十分に受けとめ
ネガティブな現実を変えたいと思いながらも、
変えられないという現実を認めてあげ、
さらに、そんなことをする必要は今はないと
言ってあげる、
そんなかかわりが先ずは重要だと思っています。

そのような準備段階を経てこそ、
信頼関係が生まれ、セラピストが言うことにも
少し耳を貸してくれるようになるのです。

また、そのような段階になったとしても、
「ポジティブ」とか「前向き」とかいう、
肯定的な言葉は使うべきではありません。
そのような言葉を使うと、
あたかもポジティブな方向に
目を向けろと言っているような、
そんな暗黙の押しつけをしている雰囲気が
出てしまうからです。

私が言っている「知らず知らずのうち」というのは、
気づいたら、ポジティブな方を向いていたという、
そんな状態を言っているのであり、
結果としてポジティブな方向に
目が向くというのは同じでも、
そこに至る過程は全く違うのです。

私が現在開催している
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーでは
「知らず知らずのうちに」目が向いてしまうような
コミュニケーションを学んでもらうための場です。
そんなコミュニケーションを身につけたいという方は
是非おいで下さい。
https://kuromarutakaharu.com/

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