ブログ:人は誰を信じるのか?

以前、大腸がんの末期の患者さんが来られました。
すでに肝臓に転移もあり、
本人も高齢であったことから、
敢えて何もしないという選択をされたため
緩和ケア外来に来ることになりました。

ところが、時々下血を認めるようになり、
また腸閉塞になりかけたこともあり、
どうにかならないだろうかとたずねられたため、
私は人工肛門を作ることを提案しました。

人工肛門は腸の一部を持ち上げ、
お腹の脇から便が出るようにする処置です。
この手術は患者さんへの負担も少なく、
また、これを作っておけば、
腸閉塞になる心配がなくなるため
残された時間を楽に過ごすことができます。

本人や家族は、一度はそれで納得したのですが、
後日、再び外来を訪れた際には、
大腸がんの塊をすべてとる手術を
したいと言い出しました。

この患者さんの場合、
高齢であり、がんを全て取り除くような
大きな手術は体に負担になること、
また肝臓がほとんどがんで
埋め尽くされているような肝転移があるため、
最悪の場合、手術をしても退院ができず
亡くなってしまうこともあり得ることを説明し、
その手術はお勧めできないと言ったのですが、
家族は大きな手術をすることに
強くこだわっていました。

よくよく聞いてみると、親戚に医者がおり、
その人に電話で相談したところ、
がんを取り除く手術を受けた方が
よいと言われたようで、
そのためその手術に
こだわっていることがわかりました。

しかし、この患者さんの場合、
CTの写真をみれば、
肝転移がひどいことが一目瞭然であり、
このような状態であれば、
ほとんどの医者は人工肛門を作るだけの手術を
選択するであろうとは容易に察しがつきます。

しかし、親戚の医者はその画像を見ておらず、
肝臓に転移があるとしか
聞いていないとのことでした。
そのため、是非画像を見てもらってから
その手術をする方がよいのか否かを
もう一度確認してほしいと言いました。

結局、親戚の医者に画像を送り、
それを見てもらったところ、
こんなに肝転移がひどいのであれば
やはり大きな手術は無理だと思うという
結論に至ったようで、
結局、人工肛門を造るだけの手術になりました。

この家族は、最終的には理解してくれましたが、
最初は、患者さんを実際に診て、
全身状態やCTの画像から
現実の状況を十分に把握している
私や外科の先生よりも、
状況をあまりわかっていない
親戚の医者の意見に従いました。

医学的な判断が必要なことは
医者に聞くのが一番でしょうが、
同じ医者であるならば、
信頼を寄せている医者の意見に
従ってしまうものなのだなということを
あらためて痛感させられました。

人は誰の言うことを信じるのか?
それは、正しいことを言っている人のことを
信じるのではなく、
自分が信頼している人のことを信じるのです。
これが人間なのです。

あなたはいかがですか?

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA


    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください