ブログ:医療と認知バイアス
先日は大学の授業で
医療における認知バイアス、
つまり思考の偏りによる判断の誤りは
こうして起こるという話をしました。
例えば食事ができなくなった
末期がんの患者さんに点滴をすることは
一般病棟では普通にあります。
この場合、点滴の目的は何かと尋ねると
6割の学生が栄養補給をするためだと
答えていました。
しかし実際はそうではありません。
通常の点滴に入ってる栄養は
80キロカロリー程度であり、
これはご飯一杯の1/3にしか
ならないからです。
一番の目的は水分補給です。
ただ、医者も何かをしないと
いけないという思いに駆られ、
目的もはっきりしないまま、
とりあえず点滴をするという場合も
ごく普通にあります。
私たちはこのように
点滴=栄養という
思い込みを持っている場合が多いため、
腹水がたまっていたり、
脚がむくんでいたりする患者さんに
点滴がされていても
全く疑問に思わないのです。
また回復困難と思われる患者さんの
人工呼吸器を家族の同意があれば
外すことができるかという
質問もしてみました。
答えは「できる」です。
以前、人工呼吸器を外したために
医者が逮捕されたという事件が
何度か報道されたこともあり、
「人工呼吸器を外す=殺人」と
思い込んでいる医者も未だにいます。
また、感情に訴えるような事柄も
その人の判断決定に大きな影響を与えます。
例えば寄付を集める際、
アフリカでは餓死している人が
10万人いると訴えるよりも、
餓死寸前の状態の赤ちゃんの写真を掲げ、
訴える方が寄付が集まりやすいことからも
わかります。
これが感情ヒューリスティクスという
認知バイアスです。
コロナ禍でさんざん不安を煽ったため
マスクが自由になっても外せなくなった人は
この感情ヒューリスティクスの罠に
ハマっていると言えます。
現状維持バイアスの話もしました。
これは読んで字のごとく、
何か問題が起こらない限り
現状をそのまま維持しようとする
心理のことです。
よくあるのが
末期がん患者さんへの投薬です。
末期がんの患者さんは状態の悪化に伴い
徐々に血圧も下がってきますが、
それでも医者は長年処方している
降圧剤を出し続けますし、
患者さんも何ら疑問を持つことなく
それを飲み続けていることがしばしばです。
まさに現状維持バイアスの結果です。
病院や介護施設で
未だにマスクの着用や面会制限をしているのも
現状維持バイアスによるものです。
また生存者バイアスというのもあります。
これは成功体験や成功者だけを見て
失敗の方は顧みないという心のクセです。
例えば○○療法で
膝の痛みが消えた!といった宣伝文句は
よく目にします。
しかし○○療法で
膝の痛みがよくならなかった人や
かえって悪化した人もいるはずですが、
そのような失敗例は顧みず
成功例ばかりに注目してしまうのが
生存者バイアスです。
いくら努力しても
皆が大谷翔平や藤井聡太のように
なれるわけではありません。
二人のような人になりたいと思って
野球や将棋に一生懸命に取り組んでも、
ほとんどの人は日の目を見ずに終わりますが
そちらに目が向けられることはまずないため
あたかもがんばればうまくいくような錯覚を
人はしてしまいがちなのです。
