ブログ:インフォームドコンセントのあり方
(前回から続く)
代替療法で
乳がんを治すと言い張る患者さんを
一生懸命に説得しようと思っても
ほとんどの場合うまくいきません。
これでは、患者さんの意向を無視し、
医者が正しいと思っていることを
押しつけているだけだからです。
逆に、患者さんの意向を
全面的に受け入れてしまえば、
命を縮める選択を無条件に認め、
医者の責任を放棄したことになるので
これもよいとは思えません。
ではどうしたらよいのでしょうか。
それは、
患者さんの価値観を大切にしつつ
医者が最善だと思う方法へと
暗に「誘導」するというやり方です。
誘導と言うと、
とても自己本位的に聞こえますが、
そうではありません。
患者さんの利益と不利益を考えた場合、
明らかに不利益の方が大きいと思われた場合
可能な限り考え方を変える、
もしくは緩めるように誘導するというのは
決して悪いことではないと思っています。
この乳がんの患者さんであれば、
手術などの西洋医学的治療は拒否し、
代替療法で乳がんを治したいという
希望を持っています。
そのような価値観を否定するのではなく、
先ずは認めるところから始めます。
当然、西洋医学的治療と代替療法の
メリットとデメリットの話はします。
その上で、代替療法を選んだのですから
その思いは尊重しなくてはいけません。
代替療法で治すと言っているからには、
それによって乳がんが
少しずつでも小さくなる、
もしくは進行が止まることが前提です。
ですから患者さんに、
代替療法の効果についても知りたいので
定期的な検査をさせてもらえないかを
提案します。
うまく受け入れてくれればOKですし、
それすら拒否されたらそれ以上は
強要できません。
ただし乳がんの場合は、
外から見てその悪化の程度がわかるので
実は検査ができなくても何とかなります。
あとは信頼関係をしっかりと築き、
定期的に外来受診をしてくれる状況をつくり、
もし病状が悪化してきて心配になれば、
遠慮なく相談できる状況を
作っておくのです。
信頼関係さえ保たれていれば、
どこかで再度、西洋医学的治療について
相談する機会もあると思います。
その際に、もしかしたら
西洋医学的治療を受けてみようと
思ってくれるかもしれません。
このように、
患者さんの価値観を尊重しつつ
信頼関係を築き、
その過程の中で少しずつ
西洋医学的治療を
受けてもいいかもという思いを
醸成していくことがポイントになります。
これが、私が言うところの「誘導」です。
ただし、そのような対応をしても、
やはり私は最後まで
代替療法で頑張りたいし、
それで早死にしてしまっても
かまわないと言われたならば、
そのときは、
その思いを大切にする必要があります。
「誘導」は強制や強要ではないのですから、
医者がそこまでやっても、
やはり患者さんの意思が
変わらないのであれば、
それ以上のお節介は不要です。
もっとも、
どんなに良心的な医者であっても
どんなに患者さんの思いを
大切にしていると思っていても、
医者の考えていることが
必ずしも正しいとは限りません。
先ほどの乳がんの患者さんが
じゃあ手術を受けますと納得し
西洋医学的治療を受けたとしましょう。
ところが、その結果、
手術の後遺症でリンパ浮腫になり
腕がパンパンに腫れてしまい、
今まで充実感をもってしていた裁縫の仕事が
できなくなってしまったということだって
あります。
患者さんが、こんなことになるんだったら
治療なんか受けずに死んだ方がマシだったと
言うかもしれません。
医者がよかれと思って「誘導」した結果、
かえって悪い状況に
なってしまったということは
決して珍しいことではありません。
そう考えると、
何が正しくて何が間違っているかなど、
誰にもわからないのです。
結果としてよかった、悪かったはありますが
あくまでもそれは結果を見てから
言えることであり、
事前のその結果を
正確に見抜くことなどできないのです。
そうであれば、結果がどうであれ
患者さんの価値観を尊重した上で、
自分が正しいと思う方向で
最善を尽くすというだけで
よいのではないでしょうか。
信頼関係がしっかりと築かれている限り、
たとえ結果が悪かったとしても
それで大きな問題になることは
まずないと私は思っています。
インフォームドコンセントというと
患者さんの意思決定を大切にすると
思われがちですが、
ここで述べたように、
実際にはその背後に医者の誘導があってこそ
適切なインフォームドコンセントが
成り立つのだと私は考えています。

私がもし癌になっても、黒丸先生のようなお医者様に診ていただけたら、私は自分の寿命を納得できます。
ありがとうございます。