ブログ:精神科と心療内科は違う
先日の大学の授業では
「ホリスティック医療から心身医学を考える」
というテーマで話をしました。
その中で精神科と心療内科の違いについて
生徒にたずねてみたのですがほとんどの人は
答えられませんでした。
もっとも医者のほとんども
その違いがわからないと話したら
びっくりしていました。
ましてや患者さんや一般の人で
その違いを知っている人など
皆無に近いと思います。
なぜ医者ですら知らないのかと言うと
そもそも大半の大学で
心療内科の授業がないからです。
全国で医学部のある大学は82校であり、
その中で内科や精神科と同じように
心療内科をしっかり教えているところは
数える程(6校?)しかありません。
つまりほとんどの医学部生は
心療内科についての勉強をせずに
医者になるのです。
ですから心療内科に関心のある医者以外は
ほとんど知らないのが当たり前なのです。
さて、ここからが本題です。
一般の人は心療内科を小精神科と
捉えている人が少なくありません。
精神科ほどではないけども
心が病んでいる、心に問題を抱えている人が
行くところが心療内科だと思っているのです。
つまり心療内科の延長線上に
精神科があると考えているわけです。
しかし実際は全く違います。
心療内科は読んで字のごとく、
「内科」なのです。
つまり循環器内科や呼吸器内科と同様、
身体の病気や症状を診るところなのです。
ただし、その背景にストレスなどの
心理的要因が強く関与している病気や症状、
つまり心身症がその対象になります。
代表的な病気は
過敏性腸症候群や気管支喘息、
胃潰瘍、アトピー性皮膚炎などです。
他にもたくさんありますが、
これらはすべてストレスなどの
心理的要因がその発症や増悪に
関与していると言われています。
もちろん通常の呼吸器科や消化器科で
対応できる場合もありますが、
その背景に強いストレスなどが
関与している場合は、
身体と心の両面を診ていくことが
必要になります。
ですから、心療内科では
身体症状を持っている患者さんを
基本的には診ることになります。
一方、精神科は
統合失調症や双極性障害(躁うつ病)に
代表されるような
精神症状を主体とした病気を診ます。
ここからして
精神科と心療内科は全く異なるのです。
ただし現実はそう単純ではありません。
なぜならばグレーゾーンの患者さんが
たくさんいるからです。
その代表は
うつ病や不安障害の患者さんです。
うつや不安があると
身体のだるさや不眠、
動悸、呼吸困難感といった身体症状を
しばしば伴うからです。
うつや不安を精神症状と捉えるのであれば、
これらは精神科の領域になります。
以前はそうでしたが、
今は一般内科医が抗うつ剤や抗不安薬を
気軽に投与するようになったため
軽めのうつや不安は
内科領域になってしまいました。
そうなると、
一般内科では対応困難な
中等度のうつや不安の患者さんは
自ずと心療内科に回される可能性が
高くなるのです。
ですから心療内科でも
これらの患者さんを
普通に診るようになりました。
さらに問題を複雑にしているのが
一般のクリニックが標榜している
「心療内科」という科名です。
看板に心療内科と書いてあれば
当然、心療内科医が診ていると
思われがちですが、
実際は、そのほとんどが精神科医です。
昔は、精神科医が開業した場合、
精神科とか神経科といった名称を
使っていました。
それが1996年から
心療内科という科名が
標榜できるようになりました。
するとほとんどの精神科クリニックは
心療内科を標榜するようになったのです。
ですから、今巷で見かける
心療内科を標榜しているクリニックの医者は
そのほとんどは精神科医であり、
患者さんも精神科の患者さんが多いというのが
実際のところです。
もちろん心療内科医がやっている
クリニックもありますが、
一般の人からすれば、
どちらの医者が診ているのかなんて
わかるわけがありません。
ただし多くの場合、
心療内科医の場合は
「心療内科・内科」と書いてあり、
精神科医の場合は、
「心療内科・精神科」と書かれています。
その当たりで区別はつくのですが、
実際のクリニックの95%以上は、
精神科医が診ているクリニックです。
なぜこんなにも数に差があるのかというと
心療内科医の数が極めて少ないからです。
令和4年における
精神科医の数は1万7000人くらいいますが、
心療内科医は863人です。
(ちなみに緩和ケア医は400人?くらいです)
つまり絶対数が20倍近く違うのですから
仕方ありません。
このような状況にあるため、
精神科と心療内科の区別が
ますますつきにくくなり、
かつ曖昧になってきているというのが
現実なのです。
心療内科と精神科の違いをわかりやすく解説してくださり、ありがとうございます。
非常に参考になりました。
お役に立てて幸いです。